セロトニンとセロトニン受容体の種類
セロトニンとは
人体には約10mgのセロトニンが存在していますが、その約90%は消化管の腸クロム親和性細胞)に存在し、8%は血小板に、残りの2%は中枢神経系に存在しています。
つまり、ほとんどがオータコイドとして存在しており、中枢神経系の神経伝達物質として働いているのは微々たるものです。
しかし、セロトニンの体内での最も大きな役割は、神経伝達物質としての働きです。
セロトニンの存在部位
- 中枢神経
- 血管
- 消化管
スポンサーリンク
セロトニン受容体の種類
セロトニン受容体は、神経伝達物質受容体の中で最も種類が多く、5-HT1〜5-HT7に14種類のサブタイプが存在しています。
しかし、臨床上の重要となるのは、5-HT1、5-HT2、5-HT3、5-HT4の4種類とそのサブタイプです。
受容体のサブクラス | 受容体の種類 | 主な存在場所 |
5-HT(1A) / 5-HT(1B/1D) | Gタンパク質共役型(Gi) | 中枢神経、消化管 |
5-HT(2A) | Gタンパク質共役型(Gq) | 中枢神経、消化管、血小板 |
5-HT3 | イオンチャネル内蔵型 | 中枢神経、消化管 |
5-HT4 | Gタンパク質共役型(Gs) | 中枢神経、消化管 |
セロトニン受容体の作用と医薬品例
セロトニンの重要な薬理作用は
- 中枢神経系に対する作用
- 血小板機能における作用
- 胃腸運動の制御
です。
セロトニン受容体に作用する薬は上記の3つのどれかに作用するため、セロトニン受容体のそれぞれの役割を理解しておくことは重要です。
中枢神経系に対する作用
中枢神経系でセロトニンは、情報伝達物質として働いており、主に精神機能、知覚、自律機能に関与しています。
精神機能調節で重要となるのは、5-HT(2A)受容体です。中枢神経系のドパミン神経末端に存在する5-HT(2A)受容体は、ドパミン放出を抑制するように働いています。
統合失調症の陰性症状と呼ばれる症状は、脳内ドパミン系のうち中脳皮質経路のドパミン量の減少が原因とされていますが、
統合失調症治療薬であるリスパダール(リスペリドン)などの非定型薬は、ドパミンD2受容体とともに、5-HT(2A)受容体を遮断する作用を持っています。
上記の通り、5-HT(2A)受容体はドパミン放出を抑制する働きがあるので、5-HT(2A)受容体遮断薬によってこの抑制が解除されることにより、ドパミンの放出を増加させます。
中脳皮質系のドパミン遊離促進は陰性症状に改善につながり、また黒質線条体系でのドパミン遊離促進は錐体外路系の副作用を軽減します。
また、5-HT(1A)受容体に作用することで、抗不安、抗うつ作用をしめす医薬品として、セディール(タンドスピロンクエン酸塩)があります。
セロトニンは、偏頭痛の原因物質としても知られています。
偏頭痛の原因ははっきりとしていませんが、セロトニンが原因となっている「セロトニン説」が有名です(三叉神経説もあり)。
セロトニンが脳底動脈にある5-HT(1B/1D)受容体を刺激することにより、脳血管平滑筋が収縮します。そしてセロトニンが代謝されると血管が拡張し、周りの知覚神経を刺激することにより偏頭痛が発生するというメカニズムです。
5-HT(1B/1D)受容体に作用にする薬として重要なものが、イミグラン(スマトリプタン)、ゾーミッグ(ゾルミトリプタン)、マクサルト(リザトリプタン安息香酸塩)、レルパックス(エレトリプタン臭化水素酸塩)などのトリプタン系薬です。
これらは5-HT(1B/1D)受容体に作用することで脳血管を収縮させ、脳血管の拡張を抑制します。
血小板機能における作用
セロトニンは、血小板膜上にある5-HT(2A)受容体を刺激して血小板凝集を促進し、血管平滑筋細胞膜上の5-HT(2A)受容体を刺激して血管を収縮させます。
アンプラーグ(サルポグレラート塩酸塩)は5-HT2拮抗薬であり、セロトニンよる血小板凝集促進作用および血管収縮作用を抑制します。
胃腸運動の制御
食事を始めると、消化管の平滑筋が収縮することにより、消化管運動が亢進します。これは、食物を消化しエネルギーに変換するのに必要な反応です。
この消化管平滑筋を収縮させるのは、上部からの刺激(活動電位の到来)により放出されたアセチルコリンですが、
腸クロム親和性細胞から遊離されたセロトニンは5-HT1受容体を介してアセチルコリンの遊離を抑制し、5-HT4受容体を介してアセチルコリンの遊離を促進します。
ガスモチン(モサプリドクエン酸塩水和物)は消化管運動促進薬であり、5-HT4受容体を刺激してアセチルコリン遊離を促進することにより、消化管平滑筋を収縮させます。
抗がん剤(とくにシスプラチン)の大量投与で吐気が起こることは有名ですが、これは抗がん剤が腸クロム親和性細胞から大量のセロトニンの遊離を引き起こし、
このセロトニンが知覚神経末梢の5-HT3受容体を刺激することで生じた興奮が延髄の嘔吐中枢に伝わり、嘔吐を引き起こすからです。
5-HT3受容体拮抗薬は、抗がん剤治療による副作用の吐気を抑えるのに非常に効果的です。
カイトリル(グラニセトロン塩酸塩)、ゾフラン(オンダンセトロン塩酸塩水和物)、セロトーン(アザセトロン塩酸塩)は、セロトニンによる吐気を抑えるのによく使われる薬です。