いろいろな薬物相互作用
多くの薬は
- 薬物動態学的相互作用(吸収・分布・代謝・排泄)
- 薬力学的相互作用(薬物受容体を介した相互作用)
で相互作用を起こします。
しかしこれら以外にも
- 物理化学的な相互作用(薬効や物理的な性質が変化する配合禁忌など。輸液、軟膏剤の混合に多い)
- 薬物と食物間の相互作用
- 薬物と環境物質間の相互作用
など様々な種類の相互作用を起こすことがあります。
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物理化学的な相互作用
物理化学的な相互作用で注意しなければならないのは、輸液やステロイド外用剤などの混合です。
注射剤・輸液
輸液は多くのものが配合変化を起こすため、配合禁忌を覚えておかなくてはなりません。
(例)アレビアチン注射液(フェニトインナトリウム)はpHが約12の強アルカリである。pHが低下するとフェニトイン結晶が析出するので、他剤と配合してはいけない。
(例)塩酸バンコマイシン点滴静注用(バンコマイシン塩酸塩)は多くの薬と配合変化をきたす。
例えば、アミノフィリン、フルオロウラシル製剤と混合すると外観が変化するとともに、著しく力価が低下する。
また、他の抗菌薬(モダシン(セフタジジム水和物)、パンスポリン(セフォチアム塩酸塩)、スルペラゾン(スルバクタムナトリウム+セフォペラゾンナトリウム))と混合すると、白濁、不溶物析出などをきたすため混合は避ける。
(例)ラシックス注(フロセミド)も多くの薬と配合変化をきたす。
ビソルボン注射液(ブロムヘキシン塩酸塩)やタガメット注射液(シメチジン)、パントシン注(パンテチン)との混合で混濁、沈殿する。
軟膏剤の配合変化
軟膏剤の混合による配合変化はたびたび問題となります。
皮膚科医師へのアンケート調査では、ステロイド外用剤と他の外用剤の混合を行っている医師の割合は85%以上を占めると言われています。軟膏剤の配合は実務で日常的に行われており、問題となる配合変化をチェックしておくことが必要です。
軟膏の基剤の組み合わせで、混合できるものとできないものがあります。
基本的には、混合後も基剤の特性を維持するため、同じ性質の基剤同士を選択することとされています。
「基剤の種類」
油脂性基剤
- 刺激は弱く薬物透過性も低い。
- 薬物透過性の高い乳剤性基剤と混合すると、主薬の透過性が高まることがある。
水溶性基剤
- 水分を吸収する性質から分泌物が多い疾患に使用される。
乳剤性基剤(クリーム剤)
- 乳剤性基剤には水中油型(O/W) と油中水型(W/O)のタイプがある。
- 刺激性があり薬物透過性が高い。
- 乳剤性基剤は混合により乳化が破壊されやすいので、原則として混合はさける。
ゲル基剤
- ゲル基剤は混合により、pHの変化、温度変化、界面活性剤の添加などで粘度が低下する。
油脂性 | 水溶性 | O/W型 | W/O型 | ゲル | |
---|---|---|---|---|---|
油脂性 | ○ | × | × | △ | × |
水溶性 | × | ○ | △ | × | × |
O/W型 | × | △ | △ | × | × |
W/O型 | △ | × | × | △ | × |
ゲル | × | × | × | × | × |
○:可能 △:組み合わせによっては可能 ×:不可
軟膏・クリーム配合変化ハンドブック p51
市販されているクリーム剤のほとんどはO/W型であり、W/O型は非常に少ないです。
W/O型基剤の軟膏剤
「副腎皮質ホルモン製剤」
- アルゾナユニバーサルクリーム0.1%
- ジフラール軟膏0.05%
- テクスメテンユニバーサルクリーム
- ネリゾナユニバーサルクリーム
- メサデルムクリーム0.1%
- ユートロンユニバーサルクリーム0.1%
「保湿剤」
- パスタロンソフト軟膏10%
- パスタロンソフト軟膏20%
- ヒルドイドソフト軟膏0.3%
「痔の治療薬」
- ネリプロクト軟膏
「外用抗生物質製剤」
- ゲンタシンクリーム0.1%
「その他」
- デスパコーワ口腔用クリーム
- ソルコセリル軟膏5%
また、軟膏と名前がついていても、乳剤性のクリーム基剤、ゲル基剤が使用されているものもあります。
商品名 | 基剤 |
---|---|
パスタロンソフト軟膏10% | W/O型乳剤性基剤 |
ヒルドイドソフト軟膏0.3% | W/O型乳剤性基剤 |
ケラチナミンコーワ軟膏20% | O/W型乳剤性基剤 |
ザーネ軟膏0.5% | O/W型乳剤性基剤 |
ユベラ軟膏 | O/W型乳剤性基剤 |
インテバン軟膏1% | ヒドロゲル |
軟膏・クリーム配合変化ハンドブック p53
薬物と食物(嗜好品)間の相互作用
薬と栄養素の関係
絶食や三大栄養素の偏った食事など、食習慣の隔たりは、薬の反応に影響を与えます。
薬は血漿タンパクと結合していない遊離型のものが薬効を現すため、タンパク質量が極端に低い食事は薬効発現に影響を及ぼします。
また、薬物代謝酵素はタンパク質でできているため、この活性にも影響があります。
脂質は小胞体、細胞膜の構成成分であり、薬物との結合に重要な役割を果たしている物質でもあります。
ビタミンはタンパク質や脂質の合成や作用に必須であり、欠乏した場合薬物代謝酵素系への影響も考えられます。
たとえばビタミンB2の欠乏により、フラビン誘導体(FAD含有モノオキシゲナーゼ)量は減少します。
また、ミネラルの欠乏は薬物代謝酵素活性を低下させますが、鉄やヨウ素のようにミネラルの欠乏が薬物代謝酵素活性を増大させる場合もあります。
アルコール
アルコールの急性投与は様々な薬物代謝を阻害し、慢性投与は逆に薬物代謝酵素を誘導します。
アルコールはそれ自身が中枢抑制作用をもつため、睡眠剤や抗不安薬との併用により、その作用を増強させます。
例えば、トリアゾラム(商品名:ハルシオン)、ジアゼパム(商品名:セルシン)の代謝を阻害し血中濃度を増加させるに加えて、それ自身も中枢抑制作用を現すため、お酒と睡眠剤、抗不安剤の併用は非常に危険です。
また、スルホニル尿素系血糖降下薬のクロルプロパミド(商品名:アベマイド)やトルブタミド(商品名:ヘキストラスチノン)はアルデヒド脱水素酵素を阻害するため、エタノールの代謝を阻害し毒性のアセトアルデヒドが蓄積することで顔面紅潮などの作用が強くなります。ただしグリベンクラミド(商品名:オイグルコン/ダオニール)はこの酵素を阻害しません。
カルシウム拮抗薬のベラパミル塩酸塩(商品名:ワソラン)の長期連用も、アルコール代謝能を低下させると言われています。
タバコ
タバコと副流煙は、昔から問題となっている話題です。
タバコの煙には3000種類以上の物質が含まれており、この中には発がん性物質も含まれるためです。
タバコは薬物代謝酵素を誘導することでも有名です。
代表例はテオフィリン(商品名:テオドール)との相互作用です。
タバコはテオフィリンの代謝酵素を誘導するため、テオフィリンが早く代謝されてしまいます。そのため喫煙者に通常量を投与すると、予測よりテオフィリンの血中濃度が低くなってしまいます。喫煙者の有効血中濃度を維持するには、最初から1.5倍の投与が必要とされています。
タバコの酵素誘導は、禁煙してからもしばらく続きます。目安としては、禁煙して6ヶ月経てばタバコの影響はないと考えてもよいとされています。
グレープフルーツジュース
多くのカルシウム拮抗薬(ニソルジピン(商品名:バイミカード)、ニカルジピン塩酸塩(商品名:ペルジピン)、ニフェジピン(商品名:アダラート/セパミット)、フェロジピン(商品名:ムノバール)、ニトレンジピン(商品名:バイロテンシン)など)、免疫抑制剤シクロスポリン(商品名:サンディミュン/ネオーラル)、タクロリムス水和物(商品名:プログラフ)、睡眠薬トリアゾラム(商品名:ハルシオン)などは、グレープフルーツジュースと一緒に服用すると血中濃度が上昇します。
これは、グレープフルーツジュースに含まれるフラノクマリン系化合物が小腸粘膜細胞に存在する薬物代謝酵素CYP3A4の活性を阻害するためです。
なお、グレープフルーツジュースは肝臓内のCYP3A4には影響を与えないとされています。
カルシウム拮抗薬 |
ニソルジピン(商品名:バイミカード)
「相互作用は弱い」 |
---|---|
睡眠薬 | トリアゾラム(商品名:ハルシオン)
※添付文書に記載はないが、海外での報告あり |
抗血小板薬 | シロスタゾール(商品名:プレタール) |
てんかん治療薬 | カルバマゼピン(商品名:テグレトール) |
高脂血症治療薬 |
シンバスタチン(商品名:リポバス) |
抗精神病薬 | ピモジド(商品名:オーラップ) |
免疫抑制剤 |
シクロスポリン(商品名:サンディミュン / ネオーラル) |
セントジョーンズワート
健康食品の西洋オトギリ草であるセントジョーンズワートは、シクロスポリンとテオフィリンの血中濃度を低下させます。
これはセントジョーンズワートに含まれるピペリシンやヒペルフォリンなどが肝臓内、小腸粘膜細胞のCYP3A4,CYP1A2を誘導するためです。
薬物と環境物質間の相互作用
重金属(鉛、水銀、カドミウム)、排気ガス、農薬、ダイオキシン類などの産業汚染物質は、薬物代謝に影響を与えます。