バルビツール酸受容体とバルビツール酸系睡眠薬の特徴
バルビツール酸系睡眠薬が作用する受容体が、バルビツール酸受容体です。
ただ、バルビツール酸受容体は単独で存在しているわけではありません。下図のようにGABAA受容体が形成するClイオンチャネルの、Clイオンタンパク上にあります。
GABAA受容体-BZD受容体-Clイオンチャネル複合体とバルビツール酸受容体の関係図
※GABAA受容体:400〜500のアミノ酸の5量体で、α、β、γを中心としたサブユニットから形成される
催眠・鎮静に関与する受容体は、GABAA受容体です。
抑制性神経伝達物質であるGABAが、GABAA受容体のGABA結合部位に結合することで、Clイオン(Cl-)が細胞内に流入し過分極します。
ただ、GABAA受容体は単独で存在しているわけではありません。上図のようにベンゾジアゼピン(BZD)受容体、バルビツール酸受容体と共役して、イオンチャネルを形成しています。
バルビツール酸系睡眠薬はバルビツール酸受容体に結合することで、
- 間接的にGABA系の活性を強める
- Clイオンチャネルに直接作用する
のいずれかの方法で、Clイオンの透過性を高めます。
バルビツール酸系睡眠薬は小用量と高用量では作用が違う
バルビツール酸系睡眠薬の大きな特徴は「高用量ではClイオンチャネルに直接作用する」ことです。ベンゾジアゼピン系睡眠薬との決定的な違いといえます。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、GABAA受容体を介して、間接的にClイオンチャネルの開口頻度を増加させます。
そのため、ベンゾジアゼピン系睡眠薬を大量に服用しても、ベンゾジアゼピン受容体が飽和するだけで、それ以上の効果は発現しません。
対して、バルビツール酸睡眠薬は、少量ではベンゾジアゼピン系睡眠薬と同じ作用を示すのですが、高用量では直接Clイオンチャネルに作用し、チャネルの開口時間を延長させます。
つまり、服用量が増えれば増えるほどClイオンの透過性が高まり、抑制作用が強くなります。結果、延髄の生命維持機能を麻痺させてしまいます。
これが、大量服用で呼吸抑制が起こり死亡する理由です。(※参考記事:ベンゾジアゼピン受容体とGABA受容体)
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バルビツール酸系睡眠薬の種類と特徴
睡眠薬の開発の歴史は、バルビツール酸系睡眠薬から始まりました。
1903年に発売されたバルビタール(商品名:バルビタール)は、優れた睡眠効果から慢性不眠症患者の多くに用いられました。
しかし、バルビツール酸系は問題も多い睡眠薬です。
バルビツール酸系睡眠薬は少量なら高い有効性を示すのですが、服用量が増えるに従って危険性が高まります。
「連用により精神依存を形成する」「だんだん効かなくなることから増量が必要となる」「突然の中止により激しい離脱症状が起こる」「大量服用で呼吸抑制を起こし死亡する」など、安全性が問題となったのです。
バルビツール酸系の問題を受けて、以後の睡眠薬開発は「安全性の高い」薬の探求にシフトしていきます。
当初、バルビツール酸系のデメリットの改善を目的として非バルビツール酸系睡眠薬(ブロモバレリル尿素など)が開発されましたが、これらも安全域が狭く、大きく改善されたとはいえませんでした。
その後、ジフェンヒドラミンが合成され、睡眠効果は穏やかであり安全性も高いことから、広く用いられるようになりました。現在では、乗り物酔いどめ、抗ヒスタミン薬(かゆみ、鼻水など)としてドラッグストアでも購入できます。
そして、1961年にベンゾジアゼピン系のクロルジアゼポキシドが開発されて以来、睡眠薬の主流はベンゾジアゼピン系(BZD)睡眠薬になりました。
歴史的にも、バルビツール酸系睡眠薬は前世紀の遺物になりつつあります。
ただ、その有効性の高さから、救急的に鎮静・睡眠が必要となる場合など限定的に用いられる場合が多いです。
バルビツール酸系睡眠薬の種類
一般名 | 商品名 | 半減期(時間) |
---|---|---|
ペントバルビタール | ラボナ | >短時間型 |
セコバルビタール | アイオナール・ナトリウム | 短時間型 |
アモバルビタール | イソミタール | 中間型 |
バルビタール | バルビタール | 長時間型 |
フェノバルビタール | フェノバール | 長時間型 |
フェノバルビタールナトリウム | ルピアール、ワコビタール | 長時間型 |
一般名 | 商品名 | 作用時間 |
---|---|---|
抱水クロラール | 抱水クロラール/エスクレ坐剤 | 超短時間型 |
ブロモバレリル尿素 | ブロバリン | 短時間型 |
トリクロホスナトリウム | トリクロリール | 短時間型 |
バルビツール酸系睡眠薬、非バルビツール酸系睡眠薬はどれも「不眠症」の保険適用があります。
しかし、前述したように安全性に問題のあるため、用いられる場面は限定的です。精神疾患による錯乱・興奮など早急に鎮静が必要な場合などです。
また、ラボナは「麻酔前投薬」「検査時の睡眠」などに用いられることもあります。
フェノバルビタールは抗てんかん薬に用いられる
バルビツール酸系睡眠薬の中でよく用いられる薬は、フェノバルビタールでしょう。
フェノバルビタール(商品名:フェノバール)は不眠症以外にも、てんかんのけいれん発作に用いられます。
強直間代発作に保険適用がありますが、全般発作ではバルブロ酸ナトリウムが第一選択薬です。フェノバルビタールが用いられるケースは少なくなっています。
薬物間相互作用が多いことも特徴的です。
フェノバルビタール配合剤に注意
フェノバルビタールが含まれる配合剤として、ベゲタミン配合剤があります。
ベゲタミン配合剤は、クロルプロマジン塩酸塩、プロメタジン塩酸塩、フェノバルビタールの配合剤で、ベゲタミンA配合剤にはフェノバルビタール40mg、ベゲタミンB配合剤にはフェノバルビタール30mgが配合されています。
統合失調症、老年性精神病、躁病、うつ病、神経症に保険適用がありますが、不眠時に頓服で処方されることも少なくありません。
近年、ベゲタミン配合剤の過剰服薬が問題となっており、生命に関わることから処方を控える傾向となっています。
バルビツール酸系睡眠薬の副作用
前述したように、バルビツール酸系睡眠薬は低用量では高い有効性を示すものの、高用量では安全性に問題のある薬です。
依存 | 精神依存を形成する |
---|---|
退薬症候 | 連用後の急な中止により、発汗、悪心、腹痛、頭痛、不眠、せん妄、けいれんなどの症状が起こる |
皮膚粘膜眼症候群 | 高熱(38℃以上)、発疹、皮膚のピリピリ感、まぶたの腫れ |
呼吸抑制 | 大量服薬で脳幹を麻痺させる |
バルビツール酸系はベンゾジアゼピン系の常用量依存とは異なり、精神依存もきたします。
バルビツール酸系睡眠薬の服用により多幸感、陶酔感をもつようになり、さらに同じ薬を求めるようになります。結果、服薬量が増え耐性※が形成されます。
※薬剤耐性:今までの服用量では効かなくなること
さらに、バルビツール酸系睡眠薬は安全域と致死量が近いため、過剰服薬では呼吸抑制など命の危険があります。
突然服薬をストップすると、退薬症候と呼ばれる辛い症状がおこるため、なかなかやめることができません。
以上のように、バルビツール酸系睡眠薬はその危険性から、使用が減少しています。
今後、お目にかかることはほとんどなくなるかもしれません。