理想的な薬の条件
患者さんによく聞かれることがあります。
それは、「副作用がない薬はないか」ということです。
もちろんそのような薬があったら理想的なのですが、現実的に副作用が100%ない薬を創るのは不可能だろうと思います。
副作用は大きく3つに分類できます。
- 薬の効きすぎ
- 薬物アレルギー
- 薬物毒性
薬の効きすぎとは、期待する薬効はでているもののそれが過剰に発現していまい、なんらかの害が発生している状態です。
例えば、睡眠薬による起床時のふらつき、日中の眠気や、スルホニル尿素薬(血糖降下剤)による低血糖などがあげられます。
薬物アレルギーとは、薬そのものによるアレルギー反応です。
つまり、免疫系が投与された薬を敵とみなし過剰に反応してしまうため発生します。卵やソバなどの食物アレルギーとメカニズムは同じであるため、特異体質によるといえます。
薬物毒性は、薬が臓器に負荷をかけることにより発生する副作用です。
薬理作用とは関係ありません。
薬は肝臓で代謝を受け、腎臓で排泄されるので、肝臓と腎臓に大きな負荷がかかることが多いのです。
副作用のメカニズムから考えても、100%副作用のない薬は難しいだろうと思うのです。今後さらに科学が進歩し画期的な薬が開発されたとしても、副作用の問題はずっと人間を悩ませるでしょう。
「しっかり効いて副作用がない」
そのような薬があれば文句はないのですが、現実には難しい。
しかし、理想的な薬の条件というものはあります。
毎年多くの薬が市場に登場してきますが、実はそれらは非臨床試験、臨床試験と多くの関門をクリアしてきた超優秀な薬なのです。
ある物質が薬になるだろうという段階からスタートして、実際に医薬品として私達の目の前に登場できる確率は約7000分の1です。いかに厳しいセレクションを通過してきたかを実感できます。
それでは、薬として成立するにはどのような条件が必要なのでしょうか。
それは以下のような条件を満たす薬です。
- 特定の部位に選択的に作用する
- できるだけ低い濃度で作用を発揮する
- 効果と毒性が発現する血中濃度が離れている
- 細胞毒性がない
- 容易に体外へ排出される
スポンサーリンク
1、特定の部位に選択的に作用する
やはり薬の理想としては、「効かせたいところだけに効く」ものが良いです。
薬の副作用が問題になるのは、薬が全身に効いてしまうことによることが多いからです。
例えば、抗コリン薬と言われるムスカリン受容体を遮断する薬は、処方せん医薬品やOTC医薬品のかぜ薬、鼻炎薬、胃腸薬などに広く使われています。
しかし、ムスカリン受容体は全身に分布しているため、眼圧上昇、尿閉、口の乾きなど全身的な副作用が発生していまい、患者さんを悩ませるわけです。
2、できるだけ低い血中濃度で作用を発揮する
薬はできるだけ少量投与でかつ、低濃度で効いてくれたほうがいいです。
大量投与しないと効かないようでは、患者さんは薬を大量に飲まなければならないため負担になります。
また、低い血中濃度で効く薬のほうが、効果が速く現れます。代謝、排泄されるときの身体への負担も低いことが多いです。
3、効果と毒性が発現する血中濃度が離れている
理想的な薬は、安全と考えられる血中濃度の幅が広いほうがいいです。
効果はあっても、毒性発現と隣合わせでは危険性が高く、非常に使いにくい薬になってしまいます。
4、細胞毒性がない
抗がん剤はがん細胞を叩かなればならないので、細胞毒性があります。
しかし、基本的に細胞毒性のある薬は危険性が高く、理想的ではありません。
5、容易に体外へ排泄される
薬は体内で効果を発現したあと、代謝や排泄により確実に体外へ排泄されなければなりません。代謝過程で毒性が発生したり、排泄するとき身体に大きな負荷をかけるようなものは薬として不適切です。
また、排泄されるまでの時間(半減期)が長すぎるというものも問題があります。(ジゴキシンのように半減期が20〜30時間のものは特殊)