自律神経の拮抗的二重支配

交感神経と副交感神経は「自動で調節されている」という意味から自律神経と呼ばれます。

 

この2つの神経は、効果器(眼、心臓、血管、胃、膀胱、など)を二重で支配し、かつ拮抗的に作用しています。

 

拮抗的とは、一方の神経の影響が促進的なら他方は抑制的という具合に、逆の作用を持ちながら効果器の状態のバランスを保っているということです。

 

交感神経は「闘争と逃走(fight and flight)の神経」と言われるように、緊急事態や危機に直面したとき優位になる神経です。

 

例えば、街で暴漢に襲われそうになった場合、「戦う」か「逃げる」かという2つの選択肢が浮かびます。どちらにしても身体のエネルギーを最大限に使って、危機を切り抜けなければなりません。

 

この瞬間、身体は以下のような反応を示します。

 

  1. 皮膚や消化器領域の血管は収縮するが、逆に骨格筋や心、肺、肝の血管は拡張する
  2. 1の結果、全身の血液の再分配が起こり、特に多量のエネルギーを必要とする骨格筋に多量の血液が供給される
  3. エネルギーを作りだすには酸素が必要なので、心臓の拍動は速くかつ強くなり、気管支は拡張する。

    肝臓でのグリコーゲン分解が亢進され、全身への酸素とエネルギー供給が増大する。

 

一方で、副交感神経は「休養と栄養(rest and repast)」の神経と呼ばれ、運動や労働による肉体的、精神的疲れから回復を促す効果を持ちます。
エネルギーを蓄えるための食物の消化吸収や、疲労回復のための安静、睡眠には、副交感神経が優位に働きます。

 

副交感神経の「副」という文字から、副交感神経は交感神経より優先順位が低いようなイメージが持たれます。しかし、生命維持の観点から、副交感神経は交感神経より重要です。副交感神経の活動が停止すると動物は生きていくことができませんが、温和で静かな環境であれば、交感神経の働きが停止しても動物は死ぬことはありません。

 

自律神経の役割
神経系対応する状況促進される機能抑制される機能
交感神経戦う
逃げる
緊張
驚き
警戒
心機能亢進
血圧上昇
気管支拡張
エネルギー放出
散瞳、
消化管機能低下
排便・排尿の抑制
副交感神経休養
栄養
リラックス
消化管運動・消化液分泌亢進
排便・排尿の促進
エネルギーの蓄積
疲労回復
心機能低下
気道の収縮(通気量減少)
縮瞳

 

スポンサーリンク

 

下図は、自律神経系の興奮と、効果器の反応を表した図です。

 

交感神経の情報を受け取るアドレナリン受容体(α、β受容体)と、副交感神経の情報を受け取るアセチルコリン受容体(とくにムスカリン受容体)は身体に広く分布し、それぞれの効果器に対して逆の反応をもたらしています。

 

代表的な効果器(眼、心臓、血管、胃、腸、膀胱など)に存在する受容体と、効果器の反応を覚えておくと、とても便利です。
自律神経に作用する薬物の薬理作用から、「その薬物の効果」と、「発生しうる副作用」を予測できるようになります。

 

例えば、抗コリン薬の副作用(眼圧上昇、排尿障害など)は有名ですが、これは、抗コリン薬はムスカリン受容体のサブタイプに対する選択性が低いことと、下図のようにムスカリン受容体が全身に分布していることが原因です。

 

自律神経の拮抗的二重支配
器官アドレナリン作動性神経コリン作動性神経
受容体反応受容体反応
瞳孔散大筋α1収縮(散瞳)(―)(―)
瞳孔括約筋(―)(―)M 3収縮(縮瞳)
心臓β1心拍数増加
伝導速度増加
収縮力増大
M 2心拍数減少
伝導速度減少
収縮力低下
血管α1収縮(―)(―)
冠血管・肺血管β2>α1拡張(―)(―)
骨格筋(血管)β2>α拡張(―)(―)
気管支平滑筋β2弛緩M 3収縮
唾液腺α1,β粘稠液少量M 3希薄液多量
胃腸平滑筋α、β2弛緩M 3収縮(消化亢進)
排尿筋β2弛緩M 3収縮
膀胱括約筋α1収縮M 3弛緩
子宮筋β2弛緩M 3収縮
前立腺α1収縮(尿閉)(―)(―)
骨格筋β2振戦(―)(―)
腎臓傍糸球体細胞β1レニン分泌促進(―)(―)
肝グリコーゲン分解β2促進(―)(―)
脂肪分解β1、β3促進(―)(―)

※(―)は反応が起こらないか、生理的意味は低いことを表している。
※心臓のアドレナリン受容体は主にβ1であるが、β2の関与があることも知られている。
※心臓のコリン受容体はほとんどがM 2型であるが、それ以外の効果器においては複数種のサブタイプが混在している。

医療薬学コンテンツ・基礎編 記事リストへ

 

 

スポンサーリンク

このエントリーをはてなブックマークに追加