ベンゾジアゼピン受容体とGABA受容体
ストレス社会日本において、不安、緊張、睡眠障害などを抱える人は増加しています。
不安や緊張に用いられる代表的な薬といえば、ベンゾジアゼピン系抗不安薬です。
また、睡眠障害に用いられる薬も、ベンゾジアゼピン系睡眠薬が主流です。
さらに、ベンゾジアゼピン系薬は抗けいれん作用を持つことから、てんかんにも用いられます。
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ベンゾジアゼピン受容体とは
ベンゾジアゼピン系薬が結合する受容体がベンゾジアゼピン(BZD)受容体です。
ベンゾジアゼピン(BZD)受容体にはω1〜ω3のサブタイプが存在しており、中枢に存在しているものはω1、ω2です。
BZD受容体のサブタイプ | 主な存在部位 | 関与する作用 |
---|---|---|
ω1 | 小脳、黒質、淡蒼球 | 鎮静・催眠 |
ω2 | 脊髄、海馬、線条体 | 筋弛緩・抗不安・抗けいれん |
※ω3はGABAA受容体との複合形成には関与していない。末梢に分布しているが、詳細は不明
薬剤師の教科書 精神科薬物療法の管理、南江堂、2011/3/201版1刷、p119 p120参考
しかし、ベンゾジアゼピン系薬は、単独で作用を示すわけではありません。
間接的にGABAA受容体に作用することで、抗不安作用、鎮静・催眠作用、抗けいれん作用を示すのです。
ベンゾジアゼピン受容体とGABA(A)受容体の関係
GABAの働きとGABAA受容体
GABA(γ-aminobutyric acid)は中枢神経系で広範囲に機能している抑制性の神経伝達物質です。
興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸が、グルタミン酸脱炭酸酵素の働きにより構造変化し、GABAが生成されます。
GABAが結合するGABA受容体にはA,B,Cの3つのサブタイプが存在しています。
抗不安、催眠・鎮静、抗けいれんなどの生理機能に関与するのはGABAA受容体です。
GABAA受容体の構造と、ベンゾジアゼピン受容体、バルビツール酸受容体との関係性
※GABAA受容体:400〜500のアミノ酸の5量体で、α、β、γを中心としたサブユニットから形成される
GABAA受容体はイオンチャネル型ですが、単独で存在しているわけではありません。GABAA受容体-BZD受容体-Clイオンチャネル複合体を形成しています。
GABAがGABAA受容体に結合することで、Clイオン(Cl-)の細胞内流入が促進され、細胞内のマイナス電荷が増えます。
よって神経細胞は過分極の状態となり、神経の興奮が抑制されます。
ベンゾジアゼピン系薬はGABAA受容体の機能を高める
ベンゾジアゼピン受容体は、GABAA受容体の分子上にあり、複合体を形成しています。
ベンゾジアゼピン系薬はベンゾジアゼピン受容体を介して、GABAとGABAA受容体の結合力を強め、GABA作動性神経の機能を高めます。
結果、Clイオンチャネルの開口頻度が増加し、より多くのCl-が細胞内に流れ込み、過分極が強化されます。
ベンゾジアゼピン系薬は、ベンゾジアゼピン受容体を介してGABAA受容体の働きを高めることで薬効を示しているのです。
ベンゾジアゼピン系薬が広く用いられるようになった理由
睡眠薬といえば「大量服用で死に至る」というようなネガティブなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
確かに、睡眠薬には危険性の高いものがあります。
それはバルビツール酸系睡眠薬です。
1903年にバルビタールが開発されて以来、バルビツール酸系睡眠薬は優れた睡眠効果から慢性的な不眠症患者に頻繁に処方されてきました。
しかし、連用による依存の形成、耐性が出現するため服用量を増加しなければならない、などデメリットもある薬でもありました。
そして最大の問題は「大量服用による呼吸抑制」です。OD(over dose)によって昏睡状態となり死に至る患者が後を絶たなかったのです。
しかし、1961年にベンゾジアゼピン系薬のクロルジアゼポキシド(商品名:コントール、バランス)が発売されると、その安全性の高さが評価されました。
ここから、多くの製薬会社がベンゾジアゼピン系薬の開発に参入し始めます。
その後、ニトラゼパム(商品名:ネルボン、ベンザリン)、フルニトラゼパム(商品名:ロヒプノール)など、作用時間の長さの違いなど様々な特徴をもつベンゾジアゼピン系睡眠薬が開発されました。
それでは、なぜベンゾジアゼピン系薬は、バルビツール酸系と比較して安全性が高いのでしょうか。
それは、上記のようにベンゾジアゼピン系薬はGABAA受容体を介した作用しかないからです。大量服用しても、ベンゾジアゼピン受容体が飽和すればそれ以上の効果は発揮されません。
一方、バルビツール酸系睡眠薬の作用するバルビツール酸受容体は、クロライド(Cl-)チャネルに結合部位があります。
バルビツール酸系睡眠薬は、少量ではGABAA受容体を介してクロライド(Cl-)チャネルに作用するため、ベンゾジアゼピン系薬と作用は似ています。
しかし、大量投与では直接Clイオンチャネルに作用し、Cl-の細胞内流入を増加させます。
ベンゾジアゼピン系薬のように受容体が飽和することはないので、服用量が増えるほどClイオンチャネルに対する作用が強くなります。
結果、延髄の呼吸中枢が抑制され、死に至ります。
ちなみに、急性アルコール中毒も、バルビツール酸系睡眠薬と同様の機序で起こるとされています。