オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント)の作用と副作用

オレキシンの発見と、オレキシン受容体拮抗薬の開発は、睡眠障害の治療を大きく変えるかもしれません。

 

なぜなら、従来の不眠症治療薬とはまったく異なる作用機序を持つからです。

 

現在処方される不眠症治療薬は、95%以上がGABA系に作用する薬です。

 

いわゆるベンゾジアゼピン系睡眠薬が不眠症治療の主役であり、1960年代に開発されて以来、幅広い世代に用いられてきました。

 

長く使っても薬剤耐性や依存性が少なく、大量服薬しても死亡する危険性がほとんどないなど、その安全性が高く評価されてきました。

 

しかし、ベンゾジアゼピン系薬にもデメリットがあります。
認知機能の低下筋弛緩作用です。

 

ベンゾジアゼピン系睡眠薬には、高齢者の認知機能を悪化させるリスクがあります。

 

また、筋弛緩作用により寝起きに足腰の筋肉に力が入らず、転倒・骨折して寝たきりになってしまう高齢者が後を絶ちません。

 

このような症例から、高齢者にベンゾジアゼピン系薬を用いることの是非が問われるようになってきました。

 

比較的安全性が高いと認識されていたベンゾジアゼピン系薬ですが、臨床で長く使われることで様々な危険性も分かってきたのです。

 

新しい薬理作用の睡眠薬が登場

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の安全性が再検討されている状況において、

  • メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン(商品名:ロゼレム))
  • オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント(商品名:ベルソムラ))

は従来の不眠症治療薬とはまったく違う作用機序を持つ薬として注目されています。

不眠症治療薬の歴史
1950年代

バルビツール酸系睡眠薬/非バルビツール酸系睡眠薬

1960年代 ベンゾジアゼピン系睡眠薬
1989年 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
2010年 メラトニン受容体作動薬
2014年 オレキシン受容体拮抗薬
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オレキシン受容体拮抗薬とは

 

オレキシンは脳内にある神経ペプチドのです。

 

オレキシンの役割は「脳の覚醒を調整する」こと。

 

つまり、オレキシンが脳の覚醒を助けることで、私達は意識をはっきり保って活動できるわけです。

 

参考記事オレキシンとは?「覚醒システム」「睡眠システム」とオレキシンの関係

 

それならば、オレキシンの作用をブロックしてやれば、覚醒システムの働きを抑えて眠りやすくなります。

 

その理論から開発された不眠症治療薬が、オレキシン受容体拮抗薬です。

 

オレキシンが結合する受容体には、OX1受容体、 OX2受容体の2つのサブタイプがあります。

 

オレキシン受容体拮抗薬はこの受容体に作用することでオレキシンの情報伝達をブロックします。
結果、睡眠システムが優位となり、自然な睡眠に導くことができるのです。

 

オレキシン受容体拮抗薬の商品には、スボレキサント(商品名:ベルソムラ)があります。

 

ベルソムラ(スボレキサント)の特徴

投与初日から効果がある

ベルソムラ(スボレキサント)は、服用した日から効果があるとされています。

 

ここが、効果が実感できるまでに2週間前後かかるとされるラメルテオン(商品名:ロゼレム)との大きな違いでしょう。

 

入眠までの時間を短縮する

「寝つきが悪い」「布団に入ってもなかなか眠れない…」――不眠症の患者さんの多くが、こういった症状に悩まされています。

 

しかし、ベルソムラ(スボレキサント)は、入眠までの時間を短縮する効果が認められています。

 

臨床試験によると「ベルソムラ(スボレキサント)投与3カ月の時点で、入眠時間を23.9分短縮した」というデータがあります。

 

中途覚醒の時間を短縮する

寝つけても、夜中に目が覚めてしまう――いわゆる中途覚醒の症状も、不眠症患者の訴えとしては多いです。

 

ベルソムラ(スボレキサント)の半減期は10時間程度であり(日本人データ)、睡眠持続効果が高いです。
そのため、中途覚醒の時間を短縮する効果が認められています。

 

また、途中で目覚めることが減れば、トータルで睡眠時間は増えます。

 

臨床試験では「ベルソムラ(スボレキサント)投与3カ月の時点で、主観的な総睡眠時間は55.3分延長した」というデータがあります。

 

ベルソムラ(スボレキサント)を服用する時の注意点

食後に服用すると効果発現が遅くなる

臨床試験のデータのよると、食後にベルソムラ(スボレキサント)を服用した場合、効果の発現が遅れる可能性があることが示唆されています。

 

そのため、食事と一緒に服用することや、食直後に服用することは避けなければなりません。

 

CYP3A4を強く阻害する薬との併用は禁忌

ベルソムラ(スボレキサント)は薬物代謝酵素CYP3A4によって代謝されます。

 

そのため、CYP3A4に強く影響を与える薬と併用する場合は注意が必要です。

 

CYP3A4を強く阻害する薬(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル、サキナビル、ネルフィナビル、インジナビル、テラプレビル、ボリコナゾール)との併用は禁忌です。

 

また、上記の薬ほどではないにせよ、CYP3Aを阻害する薬(ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等)と併用する場合は、投与量の減量を考慮しなければなりません。

 

逆に、CYP3A4を強く誘導する薬(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトインなど)と併用すると、ベルソムラ(スボレキサント)の効果が弱くなる可能性があります。

 

ベルソムラ(スボレキサント)の副作用

ベンゾジアゼピン系睡眠薬より副作用は少ない

 

ベルソムラ(スボレキサント)はベンゾジアゼピン系薬のように、GABA受容体に作用するわけではありません。

 

そのため、認知機能障害、筋弛緩作用などがほとんどなく、高齢者に使いやすいとされています。

 

しかし、ベルソムラ(スボレキサント)にも頭痛、浮動性めまい、疲労などの副作用はあります。

 

また、特徴的な副作用として、睡眠時麻痺(いわゆる金縛り)入眠時に幻覚をみる(恐怖感を伴う悪夢など)も報告されています。

 

CYP3A4を阻害する薬と併用する場合は、特に副作用も出やすくなるので注意が必要です。

 

 

 

スボレキサント(商品名:ベルソムラ)の発売は2014年であり、臨床データはまだまだ十分ではありません。

 

新薬であるため、今後も新たな副作用に注意する必要があります。

 

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