ドパミンD2受容体遮断薬

ドパミンD2受容体遮断薬として有名な医薬品は、統合失調症治療薬です。

 

統合失調症はかつて「精神分裂病」と呼ばれていました。
当時からはっきりした原因が分からず、有効な治療法がなかったためです。

 

しかし、病名自体が差別と偏見を生むと考えられたため、近年、「統合失調症」と改名されました。

 

統合失調症を簡単に説明してしまえば、「人間が持つ様々な感情を上手くまとめることができない」といえます。

 

統合失調症の症状は、大きく3つ(陽性症状、陰性症状、認知機能障害)に分けられます。

 

陽性症状

  • 本来あるはずのないものが現れる(幻覚・幻聴)
  • 自分と他人を区別することができない
  • 激しい興奮状態
  • 考えがまとまらず、支離滅裂である
 

etc,,,

 

陰性症状

  • 感情表現が乏しくなる 
  • 意欲ややる気の減退
 

etc,,,

 

認知機能障害

  • 記憶はできるが、考えることができない
  • 神経過敏
 

etc,,,

 

統合失調症の原因はいまだ解明されていませんが、上記の症状のうち陽性症状は、中脳辺縁系でドパミンが過剰に放出されていることが原因であるという説が有力となっています。

 

つまり、ドパミンD2受容体遮断薬は、統合失調症の主に陽性症状を改善する効果があります。

 

ただ、統合失調症治療薬の非定型と言われる薬は、ドパミンD2受容体以外にもセロトニンを始めとする様々な受容体に作用する薬もあります。
そのため、各受容体に関する様々な副作用にも注意しなければなりません。

 

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ドパミンD2受容体遮断薬の作用

 

中枢神経系のドパミン神経には、4つの系(中脳辺縁系、黒質線条体系、下垂体濾過系、中濃皮質系)があります。

 

中枢神経系に存在するドパミン神経系と関与する機能

  • 中脳辺縁系 →幻覚・妄想など陽性症状
  • 中脳皮質系 →陽性症状・陰性症状
  • 黒質-線条体系 →パーキンソニズム・錐体外路症状
  • 下垂体漏斗系 →プロラクチンなどのホルモンバランスの調整
  • 化学受容器引金帯(chemoreceptor trigger zone「CTZ」) →催吐作用

 

ドパミンD2受容体遮断薬はこれらに存在しているドパミンD2受容体を阻害します。

 

結果、以下のような症状が起こります

 

ドパミンD2受容体遮断薬の作用

  • 中脳辺縁系  →幻覚・幻聴の改善
  • 黒質線条体系 →錐体外路系の悪化
  • 下垂体濾過系 →高プロラクチン血症
  • 中脳皮質系  →陰性症状の発生、認知機能の低下

 

ドパミンD2受容体遮断薬による抗精神病作用は、中脳辺縁系のドパミンD2受容体遮断作用で得られていると考えられています。

 

しかし、ドパミンD2受容体は中脳辺縁系以外の系にも存在するため、上記のような副作用(錐体外路症状の悪化、高プロラクチン血症など)が起こりやすいです。

 

かつて、「精神分裂病」と呼ばれていた時代は、統合失調症治療薬には定型薬しかありませんでした。
ニューレプチル(プロペリシアジン)、セレネース(ハロペリドール)などの定型薬は、ドパミンD2受容体を強力に遮断するため、幻覚・妄想・興奮状態という陽性症状は抑えることができました。
しかし、様々なドパミン神経系に同時に作用するため、錐体外路症状の悪化(パーキンソニズム、アカシジアなど)、悪性症候群などの重大な副作用と隣合わせでもありました。

 

そこで近年登場してきたのが、リスパダール(リスペリドン)、ジプレキサ(オランザピン)などの非定型薬と呼ばれる薬です。
SDAと呼ばれるリスパダール、ルーラン(ペロスピロン塩酸塩水和物)、MARTAと呼ばれるセロクエル(クエチアピンフマル酸塩)、ジプレキサは、ドパミンD2受容体遮断薬とセロトニン5−HT(2A)受容体遮断作用を併せ持ち、錐体外路症状などの副作用が少ないことが特徴です。

 

セロトニン神経は黒質線条体系のドパミン神経に対して抑制的に働いています。非定型薬は、ドパミン神経上のセロトニン5−HT(2A)受容体を遮断することでドパミンの放出を増加させ、錐体外路系の症状を軽減する効果があります。

 

「医薬品例」

 

統合失調症治療薬

 

「定型(従来の薬)」

  • ウインタミン・コントミン(クロルプロマジン塩酸塩)
  • ヒルナミン・レボトミン(レボメプロマジン)
  • ニューレプチル(プロペリシアジン)
  • セレネース(ハロペリドール)
 

etc,,,

 

「非定型(新世代の薬)」

  • リスパダール(リスペリドン)
  • ルーラン(ペロスピロン塩酸塩水和物)
  • セロクエル(クエチアピンフマル酸塩)
  • ジプレキサ(オランザピン)
  • エビリファイ(アリピプラゾール)
  • ロナセン(ブロナンセリン)
 

etc,,,

 

ドパミンD2受容体遮断薬の副作用

 

ドパミンD2受容体遮断薬は、黒質線条体系、下垂体濾過系などのドパミン神経系に作用するため、様々な副作用を起こします。

 

上記のように

 

  • 黒質線条体系→錐体外路系の悪化
  • 下垂体濾過系→高プロラクチン血症
  • 中脳皮質系→陰性症状の発生、認知機能の低下

 

といった副作用があるので、常にリスクとベネフィットを考えながら使用しなければなりません。

 

統合失調症の定型薬は、ドパミンD2受容体を強力に遮断するので、横紋筋融解症、悪性症候群が発生しやすいです。特に悪性症候群は死亡例につながりやすく、昔は根本的な治療法が見つからなかったので大変でした。

 

現代はダントリウム(ダントロレンナトリウム水和物)という薬を使うことで、治療することができます。

 

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