薬物相互作用

現代社会は高齢化、疾病の多様化により、多種類の薬を服用している患者が増えています。

 

そこで問題となるのは、予期しない有害な薬物相互作用です。

 

薬物相互作用は、薬の吸収から薬効発現までの過程のあらゆる段階で起こりえます。

 

薬物相互作用は大きく以下のように分類できます。

 

薬物動態学的な相互作用吸収・分布・代謝・排泄過程での薬物相互作用
薬力学的な相互作用薬物の作用部位(主に受容体)における相互作用。併用薬の協力作用と拮抗作用など
物理化学的な相互作用薬効や物理的な性質が変化する配合禁忌など(例:注射剤・輸液の配合変化。軟膏剤の混合不可など。)
薬物と食物間の相互作用特殊な食品・栄養素が薬に与える影響。アルコール、タバコと薬の相互作用
薬物と環境物質間の相互作用重金属(鉛、水銀、カドミウム)、排気ガス、農薬、ダイオキシン類など

 

薬物相互作用を起こす薬は膨大な数があり、それを網羅的に記載しようとすれば、タウンページくらいの情報量になってしまいます。
よってすべてを記載することはできません。

 

ここでは全体像を説明するため、薬物相互作用のメカニズムと代表的薬物を紹介します。

 

経口投与された薬の体内動態

 

下図は経口投与(舌下または口腔内投与)された薬の生体内での動きを表しています。

 

薬の体内動態

 

スポンサーリンク

吸収過程での相互作用

 

薬が血液やリンパ系に入ることを吸収といいます。

 

静脈注射、舌下投与、坐薬による直腸投与など薬を吸収させる方法には様々なものがありますが、相互作用をもっとも受けやすいのは経口投与です。

 

口から投与された薬は、通常、消化器官である胃で溶解され小腸から吸収されますが、この過程で様々な機序の相互作用に注意しなければなりません。

 

胃内pHの変動における相互作用

 

通常、胃内のpHは1〜3程度に維持されていますが、制酸薬(酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなど)、H2受容体拮抗薬(シメチジン(商品名:タガメット)、ラニチジン(商品名:ザンタック)、ファモチジン(商品名:ガスター)など)などは胃内のpHを上昇させます。

 

よって、薬の溶解性が胃内pHに依存しているものは、薬の吸収に影響を受けます。

 

消化管からの薬の吸収は受動輸送なので、薬の分子型が吸収されます。薬は分子型とイオン型の平衡状態で存在しているので、胃内pHの変動によって分子型が増えたり減ったりすれば薬の吸収に変化がおこり、薬効の強さにも影響がでてしまうのです。

 

(例)制酸薬と弱酸性薬物(バルビツール酸類、フェニトイン(商品名:アレビアチン)、プロプラノロール(商品名:インデラル)、プロベネシド(商品名:ベネシッド)、ワルファリン(商品名:ワーファリン)など)の併用:胃内pHが上昇することで弱酸性薬物はイオン型が多くなり、消化管からの吸収が減少する。

 

(例)炭酸水素ナトリウムとアスピリン(商品名:バイアスピリン)の併用:アスピリンの吸収が促進される。胃内pHの上昇によりアスピリンの溶解速度が増加し、胃内容排出が促進されるため。

 

(例)シメチジン(商品名:タガメット)とイトラコナゾール(商品名:イトリゾール):シメチジンのH2受容体拮抗作用により胃内pHが上昇し、イトラコナゾールの溶解性が低下する。結果、イトラコナゾールの吸収が減少する。

 

以上のように

 

  • 薬の溶解性の変化
  • 分子型とイオン型の比率
  • 胃内容排出速度の変化

 

など、胃内pHの変化が薬の消化管吸収におよぼす変化は複数あり複雑です。

 

複合体の形成

 

薬の併用により、吸収され難い複合体が形成される場合があります。

 

(例)テトラサイクリン系抗生物質やキノロン系抗生物質は、2価、3価の金属イオン(Ca2+、Mg2+,Fe2+,Fe3+、Al3+)と吸収され難い複合体(キレート化合物)を形成する。
※キレート(chelate):ギリシャ語が語源で、カニのはさみを意味する。金属原子を含む化合物において、金属イオンと化合物を形成することをいう

 

(例)セフェム系抗生物質のセフジニル(商品名:セフゾン)は鉄イオンのみと複合体を形成し、吸収が約1/10になってしまう(Ca2+、Mg2+,Al3+とは問題ない)。

 

(例)コレステロール低下作用をもつコレスチラミン(商品名:クエストラン)は陰イオン交換樹脂であり、胆汁酸に吸着することで薬効を発揮する。
コレスチラミンは多くの薬(サイアザイド系利尿剤、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ジギタリス製剤、副腎皮質ステロイド、ワルファリンなど)に吸着して吸収を阻害する。

 

消化管運動への影響による相互作用

 

胃内容物排出速度 gastric emptying rate(GER)※を変化させる薬によって、併用薬の吸収に影響がでることがあります。

 

※胃内容物排出速度 gastric emptying rate(GER)

 

経口投与された薬が胃を通過して小腸へ移行する速度を胃内容物排出速度 gastric emptying rate(GER)といいます。

 

また、それにかかる時間を胃内容物排出時間 gastric emptying time(GET)といいます。

 

ほとんどの薬は主に小腸から吸収されるため,GERとGETは薬の吸収に大きな影響を及ぼします。

 

 

(例)プロパンテリン(商品名:プロ・バンサイン)の胃・十二指腸運動抑制により、アセトアミノフェン(商品名:カロナール)の吸収速度は抑制される。
メトクロプラミド(商品名:プリンペラン)の胃・十二指腸運動亢進により、アセトアミノフェンの吸収速度は促進される。
※プリンペランは制吐薬として有名だが、中枢神経に作用して消化管運動を亢進させる効果がある。

 

(例)溶解性の低い薬は、胃・十二指腸運動の抑制により吸収が促進され、逆に胃・十二指腸運動の亢進により吸収が抑制されることがある。
例えばジゴキシン(商品名:ジゴシン)は溶解性が低いため、プロパンテリンで吸収が促進され、メトクロプラミドで吸収が抑制される。プロパンテリンによりGERが遅くなり、ジゴキシンが主な吸収部位である小腸にゆっくりと到達し長く留まった分ジゴキシンの溶解性が増し、吸収量が増大すると考えられている。

 

(例)副交感神経興奮様薬は消化器官の活動を亢進させる。そのため胃排出を促進させ、胃で吸収される薬の吸収を抑制する。

医療薬学コンテンツ・基礎編 記事リストへ

 

 

スポンサーリンク

このエントリーをはてなブックマークに追加