薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄)
投与された薬は、体内で様々な運命を辿ります。
これを薬物動態といいます。
薬物動態は、吸収(absorption)、分布(distribution)、代謝(metabolism)、排泄(excretion)の4つの機能に分けて考えられることが一般的であり、頭文字をとってADMEと呼ばれたりします。
吸収(absorption) | 投与部位から体循環への移行 |
分布(distribution) | 体循環から各部位(臓器など)への移行 |
代謝(metabolism) | 代謝酵素による薬物の変化 |
排泄(excretion) | 体外への排泄 |
下図は経口投与(舌下または口腔内投与)された薬の生体内での動きを表しています。
●経口投与された薬の体内動態
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薬の吸収(薬物動態)
薬が血液やリンパ液に入ることを吸収といいます。
静脈内注射された薬は100%血液に吸収されるのですが、それ以外の投与方法(経口投与など)では完全に吸収されるわけではありません。なぜなら、経口投与などで投与された薬は、消化管粘膜などの生体膜を通過しなければならないからです。
生体膜には細胞膜、ミトコンドリア膜などがあります。基本的にタンパク質と脂質二重層よりなり、ところどころに細孔という極小の穴が開いています。
薬が吸収される形は2つあります。
受動輸送と能動輸送です
受動輸送
受動輸送は薬の吸収にエネルギーを必要とせず、拡散や浸透圧などの違いを利用するため、薬の濃度の濃いほうから薄いほうへ移動します。
ほとんどの薬は、この受動輸送によって消化管(とくに小腸)から吸収されます。
受動輸送による薬の吸収過程としては、細胞膜の脂質層を通る経路と、細孔を通る経路があります。
受動拡散によって細胞膜の脂質層を通過するには、脂溶性の薬のほうが吸収がよいです。
また、薬の解離も細胞膜の通過に影響を及ぼします。
薬の多くは弱酸性または弱塩基性であり、溶液中で分子型(非解離型)とイオン型(解離型)が共存しています。
同じ薬であっても、イオン型は分子型よりも極性が高いので水に溶けやすく、逆に脂溶性は低くなります。脂質層を通ることのできるものは分子型であることから、分子型が多く存在している薬のほうが吸収がよくなります。
一方、細孔は水溶性の低分子薬物が受動輸送で移動する通り道です。
また、小腸などでは細胞と細胞を接着している接合部を経由する細胞間隙経路が、水溶性の低分子薬物の吸収に関与しているとされています。
pH分配仮説
上記で説明したように、薬は分子型が細胞膜を通過します。
つまり、吸収部位のpHにおいて、その薬の分子型とイオン型の割合がわかれば、膜透過のしやすさを予想することができます
このように吸収部位でのpHと薬物のpKaから、生体膜を介した薬の分配(吸収)を説明しようとする理論をpH分配仮説と呼びます。
※pKa:酸解離定数Kaを常用対数で表したもの。酸として強いほどKaは大きく、pKaは小さい
能動輸送
もう1つの方法は能動輸送です。
これは薬の吸収にエネルギーを要する機構です。
生体膜には担体(チャネル)と呼ばれる「薬の運び屋」がいて、受動輸送では運べない状況でも活躍します。つまり、薬の濃度の低いところから高いところへ、エネルギーを利用して薬を運搬する役割を担っています。
血液やリンパ液などの循環系に吸収される割合を生体利用率(bioavailability)といいます。消化管から薬の吸収が悪いと、生体利用率は小さくなります。
初回通過効果(first pass effect)
薬が経口投与で消化管(胃・小腸・大腸上部)から吸収されると、門脈を経て肝臓に入ります。
肝臓には薬物代謝機能があり、薬の分子構造を変化させ活性を弱めると同時に、体外に排泄しやすいよう水溶性を高める機能があります。
このように全身循環系に入る前に肝臓で受ける代謝を初回通過効果(first pass effect)といいます。
また、消化管粘膜に存在する酵素によって代謝を受ける場合もあり、これも初回通過効果といえます。
一方、舌下、直腸から吸収された薬は直接体循環へ移行するため、初回通過効果を受けません。
投与部位や、剤形などの薬の特徴は、吸収率に影響を与えます。
また、患者個人の特性(消化管の運動機能、pH、消化管中の細菌量や状態、遺伝的要因など)も吸収率を大きく左右します。
つまり、同じ薬でも患者によってよく効く人と効かない人がいるということです。
また、経口投与の場合、他剤や食物の併用で消化管からの吸収に影響がでる場合もあります。