薬の作用機序
薬は様々な作用機序で生体に薬効を生じさせます。
作用機序は、以下のように分類できます。
- 細胞への作用
- 酵素への作用
- 代謝拮抗作用
- 物理・化学的作用
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細胞への作用
●医薬品の細胞への作用
人間の身体は、約60兆個もの細胞から成り立っています。
私達が健康で活動するためには、膨大な数の細胞が互いに連絡を取り合いバランスを保つ必要があります。
細胞の中と外を隔てているのが細胞膜ですが、ここには小さな穴が空いており、様々な物質が通過できるようになっています。
例えば細胞膜には細孔と呼ばれる、水で満たされた極小の穴が空いています。これは水に溶けやすい低分子薬物が通ることのできる穴です。
また、チャネルと呼ばれる、カルシウムイオンなどの化学物質を通過させる部位もあります。
このように、細胞は細胞膜にある様々な機能を使って外部との連絡をとっているわけですが、この機能に最も重要な役割を担うのが薬物受容体です。
薬物受容体は、神経末端から放出された化学物質を受け取り、その情報を変換して細胞内部に送ることにより、細胞外からきた情報を細胞内に伝える機能をもっています。
ノルエピネフリン、アセチルコリン、ドパミン、セロトニンといった神経伝達物質は、薬物受容体を介して細胞間で情報のやりとりがなされます。これら以外にも薬物受容体を介する物質は膨大にあります。
よって、生体に薬効を生じさせるため、細胞膜に存在する薬物受容体をターゲットにした薬が多く開発されてきました。
薬物受容体を介する医薬品としては、後述するアドレナリン受容体刺激薬(遮断薬)、ムスカリン受容体刺激薬(遮断薬)、β刺激薬(遮断薬)などがあります。
また、チャネルに作用する薬には、降圧剤のカルシウム拮抗薬(アムロジピンベシル酸塩(商品名:ノルバスク)など)、Na+チャネル遮断作用をもつ不整脈治療薬(ジソピラミド(商品名:リスモダン)、メキシレチン塩酸塩(商品名:メキシチール)など)があります。
細菌の細胞壁や、細胞内に作用する薬としては、抗菌薬があります。
細菌には細胞壁があり、外敵の侵入を防ぐ防護壁の役割を担っています。これを破壊する医薬品としてβラクタム系抗菌薬があります。
また、細胞膜を通過して細胞内に入り込むと、核、ミトコンドリア、リソソーム、リボソーム、ゴルジ体などの細胞内小器官と呼ばれるものがあります。これらは、体内の細かい調整を行っています。
テトラサイクリン系やマクロライド系抗菌薬は、リボソームに作用することでタンパク質の合成を阻害し、細菌の発育や増殖を抑える効果を持っています。
酵素への作用
人間の身体が維持されるには、常に様々な化学反応がおこり、生理物質の合成と分解が繰り返されていなければなりません。
この化学反応が流れるには「活性化エネルギー」という山を乗り越えなければならないのですが、この活性化エネルギーを低下させ、反応をスムーズに行えるようにしているのが酵素です。
体内には莫大な数の酵素が存在しています。
酵素はタンパク質の一種であり、作用する物質について極めて高い選択性を持っています。
また、タンパク質であることから、その触媒能(活性)は温度やpHによって影響をうけ、各酵素はそれぞれ最適温度、最適pHを持っています。
つまり、酵素の働きを阻害したり促進させたりできれば体内で行われる化学反応が変化し、身体になんらかの反応を起こさせることができます。
それを目的として、酵素をターゲットとした医薬品が開発されてきました。
代表例としては
- 高血圧治療薬のACE阻害剤(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
- 高脂血症治療薬のHMG-CoA還元酵素阻害剤{メバロチン(プラバスタチンナトリウム)、クレストール(ロスバスタチンカルシウム)など}
- 高尿酸血症治療薬のアロシトール(アロプリノール)
などがあります。
代謝拮抗作用
人間は食事をして栄養素を取り入れ、その分解産物を素材として身体の細胞や組織を作り出しています。これを同化といいます。
また、栄養素を細かく分解してエネルギーを得る過程もあり、これを異化といいます。
このように身体は同化・異化といった代謝を繰り返しているわけですが、この作用を妨げて作用を発揮させないようにする薬を代謝拮抗薬といいます。
代表例として、抗悪性腫瘍薬のメトトレキサート(商品名:リウマトレックス)、フルオロウラシル(商品名:5-FU )があります。代謝を阻害することで、悪性腫瘍のDNA合成を阻害する効果があります。
物理・化学的作用
物理的、化学的に作用して、薬効を生じさせる医薬品があります。
例えば、重曹は胃酸を中和して胃炎などを抑える効果があります。
また、塩類下剤として用いられる酸化マグネシウムはマグネシウムイオン(Mg(2+))として働きます。Mg(2+)が腸内に入ってくると、腸内の浸透圧が上がります。そうすると腸内の水分が吸収されなくなり、水分が便に吸収されることで便が柔らかくなり排便が楽になります。
以上のように、薬の作用機序には様々なものがあります。
新しい薬に出会ったら、作用機序を考えてみるとよいです。
それが薬の効果を高め、副作用を考えるきっかけとなり、薬の適正使用につながります。