オレキシンとは?「覚醒システム」「睡眠システム」とオレキシンの関係
オレキシンの発見は比較的新しく、1998年に日本人研究者によって発表されました。
オレキシンは摂食中枢である視床下部で産生される神経ペプチドの一種であり、オレキシンAとオレキシンBの2種類が存在します。
そして、オレキシンの受容体にはOX1受容体、OX2受容体の2種類のサブタイプがあり、Gタンパク質共役型受容体であることが分かっています。
オレキシンは覚醒を調整する
オレキシンの役割を一言でいえば「脳の覚醒を調整する」です。
つまり、「脳内でオレキシンが活躍しているとき、人間ははっきり意識を保つことができる」と言えるのです。
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「覚醒システム」と「睡眠システム」
オレキシンの働きを考えるには、人間の「覚醒」と「睡眠」のメカニズムを知っておく必要があります。
人間の睡眠は、「覚醒」と「睡眠」の2つのモードの切り替えによってコントロールされています。
「覚醒」と「睡眠」は以下のように2つのシステムが関わっています。
- 覚醒・・・「覚醒システム」が調整(脳幹にあり)
- 睡眠・・・「睡眠システム」が調整(視床下部視索前野にあり)
さらに覚醒システムは、「モノアミン作動性システム」と「コリン作動性システム」によって調整されています。
「覚醒システム」と「睡眠システム」は互いに抑制しあう
※モノアミン作動性システム:ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、ドーパミンなどの「モノアミン」を産生する
※コリン作動性システム:アセチルコリンを産生する
私達が仕事をしたり、食事をしたりするときは、意識をはっきり保たなければなりません。
こういった場合、覚醒システムが活性化することで、ノルアドレナリン、セロトニン、アセチルコリンといった神経伝達物質を生み出し、脳全体を活性化させます。
さらに、覚醒システムからの刺激が、睡眠システムを抑制することが分かっています。
反対に、私達が眠るとき、睡眠システムが活性化します。
睡眠システムの主役となるのは、GABA(γアミノ酪酸)と呼ばれる抑制性の神経伝達物質であり、これが覚醒システムの働きを抑制します。
オレキシンは覚醒システムを助ける
オレキシンは「モノアミン作動性システム」と「コリン作動性システム」に作用することが知られています。
つまり、オレキシンは覚醒システムの働きを助けることで、覚醒の維持・安定化に関わっているのです。
一方で、睡眠システムが活性化しGABA(γアミノ酪酸)が多く産生されると、オレキシンの産生は減ることが明らかになっています。
実際、オレキシンの発現量はは覚醒時に最も多くなり、逆に睡眠時には最も低くなります。
つまり、オレキシンが「覚醒システムを活性化させるアクセル」なら、GABAは「覚醒システムを抑えるブレーキ」と言えるのです。
空腹のときオレキシンは活躍している
もともと、オレキシンは「食欲」に関わる物質として注目されていました。
マウスの脳内にオレキシンを投与すると摂食量が増加することや、絶食させるとオレキシンの発現量が増えることから、「オレキシンは食欲に関係しているのではないか」と考えられていたのです。
お腹が減っていれば、食物を得るために活動量を増やさなければなりません。
そのためには意識をはっきり保つ必要があるので、オレキシンの発現量も増えます。
逆にお腹がいっぱいなら、活動量を減らして体を休めたほうがいいでしょう。
このような場合、やはりオレキシンの発現量の低下がみられ、覚醒レベルも低下します。
つまり、オレキシンは「覚醒が必要な状況」に応じてふるまいを変化させているのです。
オレキシンとナルコレプシーの関係
ナルコレプシーは睡眠障害の一種で、時と場合に関係なく突然強烈な睡魔に襲われる病気です。
例えば、仕事でミスをして上司に怒られている場合、恐怖や後悔で意識ははっきりしているはずです。
むしろ、脳は興奮状態であるといえます。
しかし、ナルコレプシーだと、そんな状況でも睡魔を我慢できないのです。
実は、ナルコレプシーは、オレキシンニューロンの変性が原因であることが分かってきました。
つまり、目覚めていなければならないときに、覚醒を維持するオレキシンが上手く働かないので、緊急事態でも寝てしまうわけです。