ベンゾジアゼピン系薬の作用と副作用

ベンゾジアゼピン系(BZD)薬はベンゾジアゼピン受容体を介して、間接的にGABAA受容体の機能を高めることで薬効を示す薬です。

 

ベンゾジアゼピン系薬は1961年に最初の薬剤が開発されて以来、比較的安全性の高い睡眠薬・抗不安薬として臨床現場で広く処方されるようになりました。

 

注意すべき問題点もあり。

しかし、現在ではベンゾジアゼピン系薬に関する様々な問題も指摘されています。

 

発売当初は、比較的安全性の高い薬として信頼されてきたベンゾジアゼピン系薬ですが、近年では「常用量依存」「反跳性不眠」などの副作用が危険視されています。

 

乱用による依存患者の増加により、欧米諸国では厳密に処方量・投与期間を制限しているところもあります。

 

また、ベンゾジアゼピン系薬によって高齢者のせん妄、筋弛緩作用からの転倒・骨折も危険視されており、高齢者医療の領域でもベンゾジアゼピン系薬の再評価が行われています。

 

そのため、ラメルテオン(商品名:ロゼレム)、スボレキサント(商品名:ベルソムラ)といった新しい作用機序の睡眠薬も発売され始めました。

 

とはいえ、ベンゾジアゼピン系薬は精神科系疾患の薬物治療に無くてはならない存在です。

 

強い不眠、不安を訴えるケースにおいて、ベンゾジアゼピン系薬は高い効果を示すからです。

 

ベンゾジアゼピン系薬は効果と危険性を十分理解した上で、医療者側から適正使用を促し、上手に付き合っていくことが大切です。

 

ベンゾジアゼピン系薬の主な作用

ベンゾジアゼピン系薬は主に

  • 睡眠薬
  • 抗不安薬
  • てんかん治療薬

として用いられます。

 

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ベンゾジアゼピン系薬の作用

ベンゾジアゼピン系睡眠薬

ベンゾジアゼピン系睡眠薬とベンゾジアゼピン系抗不安薬の作用機序は同じです。

 

ただ、開発段階で

  • 受容体に対する作用の強度
  • 作用持続時間の長さ

の違いによって、睡眠薬か抗不安薬かに区別されることが多いです。

 

一般的にベンゾジアゼピン系睡眠薬の作用持続時間は短く、ベンゾジアゼピン系抗不安薬は長いです。

 

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の作用時間
一般名 商品名 作用時間 半減期(時間)
トリアゾラム ハルシオン 超短時間 4
エチゾラム デパス 短時間 6
ブロチゾラム レンドルミン 短時間 7
リルマザホン塩酸塩 リスミー 短時間 10
ロルメタゼパム ロラメット/エバミール 短時間 10
エスタゾラム ユーロジン 中間 24
ニメタゼパム エリミン 中間 12〜21
ニトラゼパム ベンザリン/ネルボン 中間 27±6
フルニトラゼパム サイレース/ロヒプノール 中間 7〜15
クアゼパム ドラール 長時間
  • 30〜40
  • 活性代謝物:107
ハロキサゾラム ソメリン 長時間 42〜123
フルラゼパム塩酸塩 ベノジール/ダルメート 長時間 47〜100

精神科薬物療法の管理 (薬剤師の強化書シリーズ)、2011/3/201版1刷、p127参考

 

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の作用時間
一般名 商品名 作用時間 半減期(時間)
ゾルピデム マイスリー 超短時間 2.5
ゾピクロン アモバン 超短時間 4
エスゾピクロン ルネスタ

超短時間

5

※非ベンゾジアゼピン系睡眠薬はBZD系と化学構造は異なるが、BZD受容体に作用する
精神科薬物療法の管理 (薬剤師の強化書シリーズ)、南江堂、2011/3/201版1刷、p127参考

 

睡眠薬は受容体の選択性が重視される

ベンゾジアゼピン(BZD)受容体のサブタイプで重要となるのは、ω1、ω2です。
ω1は催眠・鎮静、ω2は筋弛緩・抗不安・抗けいれんに関与しています。
(参考記事:ベンゾジアゼピン受容体とGABA受容体の関係とは?

 

睡眠薬として開発するならω1に選択性の高いもののほうが良いです。なぜなら、ω2にも作用を示す睡眠薬は筋弛緩作用も強くなるからです。
実際に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬による高齢者の転倒・骨折は、高齢者医療で大きな問題となっています。

 

ゾルピデム(商品名:マイスリー)はω1受容体への選択性が高いため睡眠作用が強く、筋弛緩作用への影響は少ないとされており、高齢者にも使いやすい薬です。
また、ゾピクロン(商品名:アモバン)、エスゾピクロン(商品名:ルネスタ)もω1受容体へ比較的高い親和性を示すとされており、筋弛緩作用が弱い薬として有名です。

 

 

 

ベンゾジアゼピン系抗不安薬

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と比べて半減期が長いことが特徴です。

 

ベンゾジアゼピン系抗不安薬
一般名 商品名 作用の強弱 半減期(時間)
アルプラゾラム コンスタン/ソラナックス 14.5〜19.9
エチゾラム デパス 6
オキサゾラム セレナール 4.6
クロキサゾラム セパゾン 11〜21
クロチアゼパム リーゼ 3〜6
クロラゼプ酸 メンドン 24<
クロルジアゼポキシド コントール/バランス 6.6〜28
ジアゼパム セルシン/ホリゾン 20〜70
フルジアゼパム エリスパン 23
フルタゾラム コレミナール 3.5
フルトプラゼパム レスタス 190
ブロマゼパム レキソタン 14.7〜24.1
メキサゾラム メレックス 60〜150
メダゼパム レスミット 2〜5
ロフラゼプ酸 メイラックス 122
ロラゼパム ワイパックス 12.6

精神科薬物療法の管理 (薬剤師の強化書シリーズ)、2011/3/201版1刷、p110参考

 

ベンゾジアゼピン系抗不安薬の選び方は様々

上図のように、ベンゾジアゼピン系抗不安薬には多くの種類があり、特徴も様々です。

 

多くの場合、医師は「効果発現の速さ」「効果持続時間(半減期)」「作用の強弱(ジアゼパム換算による)」「相互作用」などで使い分けています。

 

薬理作用に関しても「抗不安」だけでなく、「催眠鎮静」「筋弛緩」「抗けいれん」「抗うつ」などを併せ持ち、薬によってそれぞれの強弱が違います。
適応症も、「心身症」「神経症」両方あるもの、片方しか適応がないものなど違いがあります。

  • ※心身症・・・心が(ストレス)原因で「体」に症状(異常)が現れる
  • ※神経症・・・心が(ストレス)原因で「情動・行動」に症状(異常)が現れる

 

デパス(エチゾラム)、リーゼ(クロチアゼパム)は「速く効き」「速く体からぬける」

エチゾラム、クロチアゼパムは「チエノジアゼピン骨格」を持つことから、正確にはベンゾジアゼピンではありません。
しかし、ベンゾジアゼピン受容体に作用することから、薬理作用は同じです。

 

チエノジアゼピン骨格ももつエチゾラム、クロチアゼパムは吸収が早いことから、薬効発現が早いことが特徴です。
また、半減期が短いことから、比較的速く体内から消失します。

 

デパス(エチゾラム)は幅広く用いられる薬

デパスは抗不安作用と催眠鎮静作用が強い薬であることから、睡眠薬としても用いられます。
また筋弛緩作用も強めなので、肩こりにも処方されます。しかし、それに付随するふらつき、転倒に注意が必要です。

 

てんかん治療薬として

ベンゾジアゼピン系薬には、抗てんかん薬として用いられる薬もあります。

 

抗てんかん薬として用いられるベンゾジアゼピン系薬
一般名 商品名
ニトラゼパム ベンザリン/ネルボン
クロナゼパム ランドセン/リボトリール
クロバザム マイスタン
ジアゼパム セルシン/ホリゾン/ダイアップ

 

ニトラゼパムは日本で最初に開発されたベンゾジアゼピン系睡眠薬ですが、筋弛緩作用、抗けいれん作用が強いため抗てんかん薬としても用いられます。

 

熱性痙攣に用いられるダイアップ坐薬

ジアゼパムの坐薬であるダイアップ坐剤は、小児のてんかんのけいれん発作や、熱性けいれんに用いられます。

 

クロナゼパムはレストレスレッグス症候群にも

レストレスレッグス症候群は、一般的には「むずむず足症候群」とも呼ばれます。
下肢の異常な不快感覚によって睡眠を妨げられるため、患者のQOLを大きく低下させます。

 

レストレスレッグス症候群は、ビ・シフロール(プラミペキソール塩酸塩水和物)などドパミン作動薬がファーストチョイスですが、補助的にリボトリール(クロナゼパム)やマイスリー(ゾルピデム塩酸塩)が用いられることもあります。

 

ベンゾジアゼピン系薬の副作用

薬の副作用は下記の3種類に分類できると言われます。

  • 薬の効きすぎ
  • 薬物アレルギー
  • 薬物毒性

3種類のうち最も頻度が高いものは「薬の効きすぎ」です。薬理作用の延長線上にある副作用であるため予想はしやすいですが、避けるのが難しい副作用ともいえます。

 

ベンゾジアゼピン系薬の代表的な副作用も、やはり「薬の効きすぎ」が原因である場合が多いです。

 

ベンゾジアゼピン系薬によくある副作用
持ち越し効果 睡眠薬の効果が翌日も続くこと。日中のねむけ、ふらつき、頭重感、脱力感、倦怠感など
記憶障害 前向性健忘:ある時点から以降の記憶を思い出せないこと。睡眠薬を服薬してから入眠するまで、中途覚醒時、朝までの出来事、行動が思いだせないなど。
筋弛緩作用 脱力感、ふらつき、転倒など
常用量依存 常用量の睡眠薬で眠れるようになるも、睡眠薬を減量・中止すると再び眠れなくなるために、睡眠薬を減量、中止できなくなった状態
反跳性不眠 睡眠薬を突然中止すると、服用開始前よりも不眠が強くなること
奇異反応 睡眠薬の服用で不安・緊張が高まり、攻撃性が増したり錯乱状態になること
せん妄 意識障害、錯乱、興奮など
退薬症候 退薬時に一過性に不安・焦燥・振戦・発汗・せん妄・痙攣などが出現すること

 

ふらつき、眠気、脱力感、筋弛緩作用は、ベンゾジアゼピン系薬の薬理作用からは容易に想像できます。

 

持ち越し効果は長時間型の睡眠薬で起こりやすいですが、特に注意すべきは高齢者です。
高齢者は腎機能・肝機能などの生理機能の低下により、薬効が強く発現しやすく、蓄積しやすい状態であることが多いです。

 

ハルシオン(トリアゾラム)は高力価で半減期が短いため、反跳性不眠、前向性健忘を起こしやすいとされています。

 

 

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