アドレナリンβ受容体遮断薬の作用

アドレナリンβ1,β2受容体ともにGsタンパク質共役型受容体です。

 

β1受容体は主に心筋と腎臓(レニン分泌に関与)、脂肪細胞などに分布していますが、β2受容体は骨格筋、肝臓、肺、腎臓、冠血管、気管支平滑筋、子宮平滑筋など全身的に分布しています

 

スポンサーリンク

アドレナリンβ受容体遮断薬の作用

 

β遮断薬が使用される疾患は狭心症、高血圧、頻脈性不整脈、緑内障など様々です。それらの疾患の状態によりβ遮断を第一選択として用いるケースがあります。

 

運動や食事などによって発生する「労作型」と呼ばれる狭心症の発作には、β遮断薬が使用されることが多いです。心筋の収縮を抑えて心拍数を減らし、酸素需要量の増加を抑制する効果があるからです。

 

また、高血圧治療薬の初期治療は、ARBやカルシウムブロッカーから始まることが多いのですが、若年者、軽症例、高レニン性高血圧症であり、労作性狭心症・頻脈性不整脈を合併しているケースでは、β遮断が第一選択薬として選ばれます。

 

不整脈の治療では、運動時に増悪するケースではβ遮断薬が使用されます。

 

 

 

狭心症、本態性高血圧

 

プロプラノロール(商品名:インデラル)などの非選択的β受容体遮断薬はβ1作用による心機能亢進作用、β2作用による血管平滑筋、気管支平滑筋弛緩作用に拮抗し、狭心症、本態性高血圧、頻脈性不整脈の治療に用いられています。

 

α遮断薬と比べてβ遮断の開発は遅れ、初めてβ遮断作用のある化合物として報告されたのは、ジクロロイソプロテレノール(DCI)でした。
しかし、ISA(内因性交感神経興奮様作用)が強すぎて実用には適しませんでした。その後プロネサールを経て、1962年にプロプラノロールの合成に成功してのち、β遮断薬は狭心症、高血圧、不整脈、緑内障など様々な疾患に用いられるようになりました。

 

プロプラノロール開発後、多くのβ遮断が市場に登場しました。
種類が多いので覚えるのに一苦労なのですが、β遮断薬は以下のような特性で分類することができます。

 

  1. β受容体サブタイプに対する選択性
  2. ISA(内因性交感神経興奮様作用)
  3. 膜安定化作用(局所麻酔作用)
  4. α遮断作用
  5. 中枢移行性(脂溶性)
  6. 直接的血管拡張作用
  7. 体内動態(分布、代謝、排泄、半減期など)

 

特性の違いが薬効に大きな影響を与えることはありませんが、副作用の発現には若干の差が生じると考えられています。

 

例えば、膜安定化作用は局所麻酔作用なのですが、日本国の常用量ではこの作用はほとんど現れません。問題となるのは、大量投与する米国です。心不全傾向の患者さんには注意が必要とされています。

 

また、中枢移行性は幻覚、抑うつ症、錯乱などの副作用をもたらすので、最近は血液脳関門を通過しないカルテオロール(商品名:ミケラン)、アセブトロール(商品名:アセタノール)、アテノロール(商品名:テノーミン)が好んで使用されています。

 

特性の違いで重要となるのは

 

  1. β受容体サブタイプに対する選択性
  2. ISA(内因性交感神経興奮様作用)

 

の2つです。

 

1. β受容体サブタイプに対する選択性

 

非選択的β受容体遮断薬は、β1,β2受容体両方を遮断するため、気管支喘息、低血糖症状の悪化(インスリン分泌抑制作用)など副作用に注意しなければなりません。

 

気管支喘息はβ2受容体が遮断されることで収縮します。

 

また、β2受容体が遮断されることで肝グリコーゲン分解は抑制されるため、糖尿病患者の低血糖状態を悪化させる可能性があります。

 

一方で、選択的β1受容体遮断薬はβ2への影響が少ないため、気管支喘息の患者さんや糖代謝異常のある患者さんに使いやすいという利点があります。

 

2. ISA(内因性交感神経興奮様作用)の有無

 

内因性交感神経興奮様作用 intrinsic sympathomimetic activity (ISA)の性質を有しているかいないかが、薬物選択の基準となることがあります。

 

ISAのあるものは脈拍数をあまり減らさないため、過剰なβ遮断によって起こる心不全を防止し、また休薬症候群(降圧剤を連用後に突然中止すると、狭心症や高血圧の症状が悪化すること)の発生も少ないという特徴があります。しかし、狭心症発作誘発の危険性が疑われています。

 

「医薬品例(非選択的β受容体遮断薬)」
  • カルビスケン(ピンドロール)(ISA(+))
  • ブロクリンL(ピンドロール徐放錠)(ISA(+))→本態性高血圧症のみ
  • ナディック(ナドロール)(ISA(-))
  • ミケラン(カルテオロール塩酸塩)(ISA(+))
  • ハイパジール(ニプラジロール)(ISA(-))
  • インデラル(プロプラノロール塩酸塩)(ISA(-))

 

「医薬品例(選択的β1受容体遮断薬)」
  • アセタノール(アセブトロール塩酸塩)(ISA(+))
  • セロケン・ロプレソール(メトプロロール酒石酸塩)(ISA(-))
  • テノーミン(アテノロール)(ISA(-))
  • セレクトール(セリプロロール塩酸塩)(ISA(+))
  • メインテート(ビソプロロールフマル酸塩)(ISA(-))
  • ケルロング(ベタキソロール塩酸塩)(ISA(-))

 

 

頻脈性不整脈

 

不整脈の治療においてβ遮断薬は、上室性・心室性不整脈に用いられますが、とくに運動時に増悪するもの、虚血性心疾患を伴うもの、頻脈性不整脈に有用性が高いと言われています。

 

「医薬品例」
  • インデラル(プロプラノロール塩酸塩)(ISA(-))
  • メインテート(ビソプロロールフマル酸塩)(ISA(-))
  • テノーミン(アテノロール)(ISA(-))

 

緑内障

 

緑内障の治療薬は眼圧を下げる目的で使用されますが、その機序は

 

  • 眼房水の流出を促進させる
  • 眼房水の産生を抑制する
  • 両方の作用をもつもの

 

の3種類に大別できます。

 

カルテオロール(商品名:ミケラン)、チモロール(商品名:チモプトール)、ベタキソロール(商品名:ベトプティック)といったβ遮断は、眼房水の産生を抑制する機序で眼圧を低下させます。

 

「医薬品例」
  • ミケラン(カルテオロール塩酸塩)(ISA(+))
  • チモプトール(チモロールマレイン酸塩)(ISA(-))
  • ベトプティック(ベタキソロール塩酸塩)

 

 

アドレナリンβ受容体遮断薬の副作用

 

気管支喘息に禁忌

 

非選択的β受容体受容体遮断薬は、β2受容体遮断作用に基づく気管支閉塞を引き起こすので、気管支喘息の患者さんには禁忌です。

 

ただし気管支閉塞の副作用は、選択的β1受容体遮断薬でも注意が必要です。
β1受容体選択性は相対的なもので、若干のβ2遮断作用もあります。そのため、アテノロール(商品名:テノーミン)、アセブトロール(商品名:アセタノール)で呼吸困難などの副作用が報告されています。

 

また、チモロール(商品名:チモプトール)、カルテオロール(商品名:ミケラン)などの点眼薬は局所作用ですが、気管支喘息が誘発されたという報告があります。
点眼薬といえども、わずかながら血中に吸収されるため、全身的な副作用を起こす可能性があります。
チモロール、カルテオロールは気管支喘息に禁忌となっています。

 

糖尿病性ケトアシドーシス、代謝性ケトアシドーシスのある患者に禁忌

 

非選択的β受容体受容体遮断薬は、β2受容体を介する肝グリコーゲン分解および糖新生を抑制するため、糖尿病患者の血糖降下剤、インスリンによる血糖降下作用を増強し、低血糖を悪化させます。
そのため、糖尿病性ケトアシドーシス、代謝性ケトアシドーシスのある患者に禁忌となっています。

 

心機能障害のある患者

 

β遮断薬は心機能を抑制する方向へもっていく薬です。そのため、心機能障害のある患者に投与した場合、心不全を起こしたり増悪させたりすることがあります(うっ血性心不全に禁忌)。

 

また、刺激伝導系に抑制的に作用するため、高度の徐脈、房室ブロック、洞房ブロックのある患者さんに対して禁忌となっています。

 

褐色脂肪細胞腫のある患者

 

褐色脂肪細胞腫の患者では、腫瘍からエピネフリンが過剰に分泌され、強度の血管収縮が起こっています。

 

エピネフリンはα、β作用ともに強い作用を示します。この状態にβ遮断薬を単独投与すると、エピネフリンのα作用が増強され、さらに血管収縮作用(血圧上昇)が増強されます。

 

このことから、未治療の褐色脂肪細胞腫にβ遮断薬は禁忌となっています。

 

※β遮断薬を使用する場合は、初期治療でα遮断薬を投与した後に使用する。常にα遮断薬を併用することとされている。

 

医療薬学コンテンツ・基礎編 記事リストへ

 

 

スポンサーリンク

このエントリーをはてなブックマークに追加