薬力学的な薬物相互作用

多くの薬は、薬物受容体を介して薬効を発現します。

 

薬物受容体は神経や血液によって運ばれてきた情報を受け取り、それを細胞内へ伝達する働きをしています。つまり、薬はこの受容体を刺激、あるいは阻害することで生体に反応を起こさせているのです。

 

薬力学的相互作用とは、同様、あるいは相反する薬理作用をもつ薬同士を併用した場合に、薬物受容体に対する感受性または反応性が変化することをいいます。

 

薬力学的相互作用には

 

  • 協力作用……相加作用、相乗作用
  • 拮抗作用……競合的拮抗、非競合的拮抗

 

があります。

 

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協力作用

 

協力作用とは、薬の作用が似ており、お互いに強められる場合です。

 

相加作用

 

併用した場合の薬効が、それぞれ単独で投与した場合の薬効の和として現れた場合。
1+1=2 のように算術和として現れるものを言います。

 

相加作用の例

 

(例)中枢神経系の抑制作用をもつ薬(アルコール、睡眠薬、抗不安薬、抗精神病薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン薬など)を併用した場合、中枢抑制作用が増強される。

 

(例)抗コリン作用をもつ薬(三環系抗うつ薬、抗パーキンソン薬、抗精神病薬)と、抗コリン薬との併用で抗コリン作用が増強され、尿閉、眼圧上昇などの副作用が起こりやすくなる。

 

(例)降圧剤と血管拡張作用をもつ薬(狭心症治療薬など)の併用で降圧作用が増強される。

 

(例)サリチル酸製剤は血糖降下作用をもつ。また、β遮断薬にもβ2遮断に基づく肝グリコーゲン分解抑制作用による血糖降下作用がある。これらの薬とスルホニル尿素類などの糖尿病治療薬を併用した場合、低血糖の副作用が起こりやすくなる。

 

相乗作用

 

併用した場合の薬効が、それぞれ単独で投与した場合の薬効の和よりも強く現れた場合。
6×2=12 というイメージで薬効が強くなるもの。

 

相乗作用の例

 

相乗作用は併用する薬の作用点、作用機序が異なる場合に起こることが多いです。

 

(例)コリンエステラーゼ阻害剤であるネオスチグミン臭化物(商品名:ワゴスチグミン)とアセチルコリン(商品名:オビソート)、ベタネコール(商品名:ベサコリン)などのムスカリン受容体刺激薬を併用すると、相互に作用が増強される。
コリンエステラーゼ阻害作用によりムスカリン受容体刺激薬の分解が抑制されるためである。

 

(例)三環系抗うつ薬、SNRI(ミルナシプラン塩酸塩(商品名:トレドミン)、デュロキセチン塩酸塩(商品名:サインバルタ))などは交感神経終末におけるノルエピネフリンの再取り込みを阻害するため、ノルエピネフリンの作用を増強させる。

 

(例)α-グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース(商品名:グルコバイ)、ボグリボース(商品名:ベイスン))とスルホニル尿素類との併用で、それぞれの作用が増強され、低血糖を起こしやすくなる。

 

(例)非ステロイド性抗炎症薬とニューキノロン系抗菌薬との併用による脳内作用部位における相乗作用で、痙攣発作が起こりやすくなる。

 

 

 

拮抗作用

 

拮抗作用とは、薬の作用が相反しており、お互いが弱められる場合です。

 

競合的拮抗

 

同じ受容体を取り合うことで起こる拮抗作用です。

 

Aという受容体に作用する薬を活性薬Aとした場合、受容体Aに作用し活性薬Aの作用を減弱させる薬を競合的拮抗薬といいます。

 

下図のように競合的拮抗薬Bが受容体に結合している場合、活性薬Aが増えるに従って競合的拮抗薬Bを追い出していきます。

 

競合的拮抗薬

 

活性薬Aの用量反応曲線をとった場合、活性薬Aのの単独投与と比較して、競合的拮抗薬Bの併用時は高用量側へ平行移動します。

 

用量反応曲線

 

例としては、アセチルコリンとアトロピンの拮抗があります。

 

非競合的拮抗

 

活性薬Aの受容体と異なる受容体に作用して、活性薬Aの作用を減弱させる薬を非競合的拮抗薬といいます(下図参照)。

 

活性薬Aと非競合的拮抗薬Cを併用した場合、活性薬Aの用量を増やしても非競合的拮抗薬Cの結合に影響はでません。
よって、活性薬Aの用量反応曲線をとると、活性薬Aの最大反応などすべての反応が同じ割合で影響を受けます(上図参照)。

 

非競合的拮抗薬

 

例としては、アセチルコリンによる摘出小腸の反応に対するパパベリンの拮抗があります。

 

拮抗作用の例

 

(例)プロプラノロール塩酸塩(商品名:インデラル)と抗コリン薬との併用で、プロプラノロールの副作用(徐脈、心拍出量減少)が抗コリン作用により緩和される。

 

(例)イソプレナリン塩酸塩(商品名:プロタノール)などのβ刺激薬と、プロプラノロールなどのβ遮断薬との併用で、イソプレナリンの気管支拡張作用が拮抗される。

 

(例)睡眠薬とカフェインの併用による睡眠作用の低下。

 

(例)レボドパ(商品名:ドパストン/ドパゾール)と抗精神病薬(ドパミンD2受容体拮抗作用)との併用によるパーキンソン病治療効果の減弱。

 

 

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