消化性潰瘍治療薬の種類と特徴
消化性潰瘍の原因は、
- 胃液の分泌が増加しすぎて、胃の粘膜を溶かしていまう
- 胃の粘膜が弱くなり、胃液からダメージを受けてしまう
とされています。
そのため、
- 胃液の出すぎ→胃酸の分泌を抑える薬
- 胃の粘膜が弱くなった→胃の粘膜を保護・強化する薬
という考え方のもと、治療薬が選択されます。
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攻撃因子抑制薬の作用と副作用
攻撃因子抑制薬の作用点
胃酸分泌抑制作用の強さ
PPI>H2受容体拮抗薬≒選択的ムスカリン受容体拮抗薬>その他
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
一般名 | 商品名 | 特徴 |
---|---|---|
オメプラゾール | オメプラール |
|
ランソプラゾール | タケプロン | カプセル剤、口腔内崩壊(OD錠)、注射剤と剤型が豊富 |
ラベプラゾールナトリウム | パリエット | CYPP450の関与がわずかで、相互作用が少ない |
エソメプラゾールマグネシウム水和物 | ネキシウム | オメプラゾールの光学異性体(S体) |
ボノプラザンフマル酸塩 | タケキャブ | カリウムイオン競合型アシッドブロッカー |
プロトンポンプ阻害薬(PPI)の作用
PPIは酸分泌の最終段階であるプロトンポンプを阻害することで薬理作用を示します。
後述するH2受容体拮抗薬、選択的ムスカリン受容体拮抗薬など間接的に酸分泌を抑制する薬と比べて、PPIは直接プロトンポンプを阻害します。
そのため、胃酸分泌抑制作用はH2受容体拮抗薬よりも強く、1日1回でOKであるため服薬コンプライアンスもよく、消化性潰瘍、逆流性食道炎の第一選択薬とされています。
オメプラール(オメプラゾール)、タケプロン(ランソプラゾール)が代表的です。オメプラゾールの光学異性体(S体)であるネキシウム(エソメプラゾールマグネシウム水和物)も発売されました。
ネキシウムはCYP2C9の影響を受けにくいことから、代謝に関して個人差が少なく、強い酸分泌抑制作用を持ちます。
保険適用上、胃潰瘍には8週、十二指腸潰瘍には6週までという投与制限があるため、維持療法ではH2受容体拮抗薬が用いられます。
プロトンポンプ阻害薬(PPI)の特徴
主に肝代謝
主に腎排泄されるH2受容体拮抗薬と違って、PPIは肝代謝です。
そのため、腎障害のある患者でも投与量の調整は必要ありません。
ネキシウムは遺伝子多型による個人差が少ない
PPIの主な代謝酵素はCYP2C19、3A4です。2C19には遺伝子多型があるため、PPIの薬効、代謝には個人差がでることがあります。
代謝に2C19が関与している薬はオメプラゾール(商品名:オメプラール)、ランソプラゾール(商品名:タケプロン)、エソメプラゾールマグネシウム水和物(商品名:ネキシウム)です。
しかし、エソメプラゾールマグネシウム水和物(商品名:ネキシウム)はオメプラゾールの光学異性体(S体)であり、2C19の関与がすくなく、遺伝子多型による個人差の変動がすくないと考えられています。
胃内pH上昇による相互作用あり
胃酸分泌抑制作用による胃内pHの上昇が、併用薬の吸収に影響を与えるケースがあります。
上記PPIは、アタザナビル硫酸塩(レイアタッツ)、リルピビリン塩酸塩(エジュラント)との併用禁忌の記載があります。
これは胃内pHが上昇することで、アタザナビル硫酸塩の溶解性、リルピビリン塩酸塩の吸収が低下し、血中濃度が低下するためです。
パリエットは相互作用が少ない
パリエット(ラベプラゾールナトリウム)は代謝経路は非酵素的還元反応です。
つまり、CYP2C19、3A4の関与が少ないため、薬物間相互作用の影響も少ないです。
H2受容体拮抗薬
一般名 | 商品名 | 特徴 |
---|---|---|
ファモチジン | ガスター |
|
ラニチジン | ザンタック | 胃酸とペプシンの分泌抑制作用あり |
シメチジン | タガメット |
|
ロキサチジン酢酸エステル塩酸塩 | アルタット |
|
ニザチジン | アシノン |
消化管運動・唾液分泌促進作用ももつ |
ラフチジン | プロテカジン |
|
H2受容体拮抗薬の作用
胃粘膜壁細胞のH2受容体に拮抗することで胃酸分泌を抑制します。
直接プロトンポンプを阻害するPPI登場後は急性期よりも維持療法に広く用いられるようになりました。
「ガスター10」などドラッグストアでも手軽に購入できる薬です。
H2受容体拮抗薬の特徴
夜間の酸分泌を強く抑制する
PPIは1日中効果が持続しますが、H2受容体拮抗薬は日中よりも夜間の酸分泌抑制作用が強いとされています。
主に腎排泄型
プロテカジン(ラフチジン)以外のH2受容体拮抗薬は腎排泄型です。そのため、腎障害患者、高齢者には投与量に注意が必要です。
タガメットは薬物間相互作用が多い
併用禁忌があるH2受容体拮抗薬はないですが、併用注意の記載があるものはあります(タガメット、ザンタック、ガスター、アシノン)。
胃酸分泌抑制作用による胃内pHの上昇が、併用薬の吸収に影響を与えるケースがあります。
また、タガメット(シメチジン)はCYP3A4、2D6の阻害作用が強く、ワーファリン、ハルシオン、テグレトール、テオドールなど多くの薬と相互作用を起こすため注意が必要です。
H2受容体拮抗薬の副作用
高齢者には投与量減少、中止の検討も必要
「ヒスタミンH2受容体拮抗薬」でも解説しているように、H2受容体拮抗薬を高齢者に投与する場合は注意が必要です。
なぜなら、「認知機能の低下」「せん妄」のリスクが高まるからです。
これは、
- H2受容体拮抗薬がH1受容体にも影響していること
- 高齢者は腎機能が低下している場合が多く、薬効が強くでる場合があること
が原因とされています。
選択的ムスカリン受容体拮抗薬
一般名 | 商品名 | 特徴 |
---|---|---|
チキジウム臭化物 | チアトン | 緑内障、前立腺肥大による排尿障害、重篤な心疾患、麻痺性イレウスに禁忌 |
ピレンゼピン塩酸塩水和物 | ガストロゼピン | 緑内障、前立腺肥大、心疾患などに禁忌なし。高齢者にも使いやすい。 |
選択的ムスカリン受容体拮抗薬の作用
アセチルコリン受容体の一種であるムスカリン受容体には多くのサブタイプがあります。
その中で重要となるのは
- M 1(主に脳、自律神経節に分布)
- M 2(心臓に分布)
- M 3(主に平滑筋、分泌腺に分布)
です(参考記事:アセチルコリン受容体)。
選択的ムスカリン受容体拮抗薬はM1受容体に選択的に作用しますが、M2、M3受容体にはあまり影響しません。
そのため、前立腺肥大、緑内障、心疾患の患者にも投与できることから、高齢者に用いられることが多いです(※チアトンは禁忌疾患あり)。
酸分泌抑制作用はH2受容体拮抗薬と同じくらいとされています。
選択的ムスカリン受容体拮抗薬の副作用
M1受容体への選択性の高さから副作用が少ないことが利点ですが、口喝が生じることがあります。
抗ガストリン薬
一般名 | 商品名 | 特徴 |
---|---|---|
プログルミド | プロミド | 抗ガストリン作用と胃粘液合成促進作用を併せ持つ |
抗ガストリン薬の作用
ガストリンは胃酸やペプシノーゲン(タンパク質分解酵素:ペプシンの前駆物質)の分泌を促すホルモンであり、胃壁細胞に存在するガストリン受容体に結合することで作用を発揮します。
抗ガストリン薬はガストリン受容体を阻害することで胃酸分泌を抑制します。
ただ、PPI、H2受容体拮抗薬、選択的ムスカリン受容体拮抗薬と比べて、酸分泌抑制作用は弱いとされています。
抗コリン薬
一般名 | 商品名 | 特徴 |
---|---|---|
ピペリドレート塩酸塩 | ダクチル | 緑内障、前立腺肥大などに禁忌 |
ブチルスコポラミン臭化物 | ブスコパン | 腹痛などに鎮痙薬として用いられる |
チメピジウム臭化物水和物 | セスデン | 鎮痙・鎮痛薬 |
プロパンテリン臭化物 | プロ・バンサイン | 鎮痙薬 |
抗コリン薬の作用
胃酸の分泌を促進しているのは副交感神経です。
副交感神経が支配しているのがアセチルコリン受容体であり、アセチルコリンが受容体と結合することで胃酸分泌が促進されます。
抗コリン薬は副交感神経の働きを抑えて胃酸分泌抑制作用を示します。
しかし、抗コリン薬の酸分泌抑制作用は弱いため、胃酸分泌抑制を目的として用いられることは少ないです。
現在は鎮痙薬として用いられることが多いです。
抗コリン薬の副作用
抗コリン薬で有名な副作用は、口喝、眼圧上昇、排尿障害などです。
抗コリン薬はムスカリン受容体(アセチルコリン受容体)のサブタイプ(M1〜M5)に対する選択性が低いため、全身に分布している様々なサブタイプに作用していまいます。
これが、抗コリン薬によって生じる副作用の原因とされています。
関連記事:ムスカリン受容体遮断薬(抗コリン薬)
制酸剤
一般名 | 商品名 | 特徴 |
---|---|---|
酸化マグネシウム | マグミット/マグラックス | 下剤としても用いられる |
水酸化アルミニウムゲル・水酸化マグネシウム配合剤 | マーロックス | 即効性が高い |
制酸剤の作用
制酸剤は昔から用いられてきた薬であり、OTC医薬品の胃腸薬にも配合されています。
即効性があるため、急性胃炎や機能性ディスペプシアなどの急性期に用いられることもあります。
しかし、持続性はないためあくまで対症療法という位置づけです。消化性潰瘍のメインはやはりPPIとH2受容体拮抗薬です。
制酸剤には主に、マグネシウム(Mg)製剤とアルミニウム(Al)製剤があります。
アルミニウム製剤は制酸力は弱いですが、粘膜保護作用、ペプシン不活化作用があります。
制酸剤の副作用
酸化マグネシウムは下剤としても用いられる薬です。
長期投与の場合は高マグネシウム血症に注意が必要です。
防御因子増強薬の作用と副作用
効果 | 主な薬剤 |
---|---|
病巣部位保護作用 |
|
肉芽形成促進作用 |
|
粘液分泌促進作用 |
|
粘膜微小循環改善作用 |
|
細胞保護作用(プロスタグランジン作用) |
|
弱った胃粘膜を強化する薬は防御因子増強薬と呼ばれます。
日本では20成分以上の防御因子増強薬が市販されていますが、まとめて「胃薬」と覚えている人も多いです。
しかし、実際は上記のように5つの作用に分類できます。
ほどんどの薬は複数の作用を併せ持っていますが、代表的な薬と特徴について下記にまとめました。
病巣部位保護作用
薬が潰瘍部位を包むようにして保護します。
代表的な薬はアルサルミン(スクラルファート)。
胃粘膜を保護するだけでなく、抗ペプシン作用、制酸作用を併せ持つため、単独投与でH2受容体拮抗薬と同等の効果があるとされています。
PPI、H2ブロッカーが投与できない場合の第一選択薬です。
また、プロマック(ポラプレジンク)は化学構造中に亜鉛を含み、味覚障害に用いられることもあります。
肉芽形成促進作用
潰瘍部位の肉芽形成を促進することで治癒を早めます。
イサロン(アルジオキサ)が代表的な薬です。
テトラサイクリン系、ニューキノロン系の抗菌薬と同時に服用すると、イサロンの化学構造中に含まれるアルミニウムとキレートを形成し吸収が低下するため同時に服用しないこととされています。
粘液分泌促進作用
胃の表面に広がる粘液の分泌を盛んにすることで防御作用を高めます。
セルベックス(テプレノン)、ムコスタ(レバミピド)は日本でもっとも用いられている胃薬です。
ロキソニンなどのNSAIDsとセットで処方されることが多いです。
粘膜微小循環改善作用
粘膜の血液循環を良くすれば、より多くの酸素や栄養素が粘膜に供給され治癒が早まります。
ノイエル(セトラキサート塩酸塩)が代表的な薬です。
また、ドグマチール(スルピリド)は抗ドパミン作用をもち、統合失調症治療薬、抗うつ薬として用いられることもあります。
そのため、ストレスの多い消化性潰瘍の患者に有効とされています。
しかし、ドパミン受容体拮抗作用による錐体外路症状、高プロラクチン血症に注意が必要です。
細胞保護作用(プロスタグランジン作用)
ロキソニンに代表されるNSAIDsで胃が荒れるのは、NSAIDsが胃粘膜のプロスタグランジンを減らしてしまうことが原因です。
つまり、プロスタグランジンは胃の粘膜を強化する働きをしているのです。
プロスタグランジン製剤としてはサイトテック(ミソプロストール)が代表です。
鎮痛薬としてもNSAIDs、抗血小板薬として低用量アスピリンを長期投与した場合のNSAIDs潰瘍に有効とされています。
しかし、子宮収縮作用があるため妊婦には禁忌です。