なぜ高血圧の治療は必要か?

高齢者が集まれば話のたねとなるのは「健康・病気」ではないでしょうか。

 

「最近血圧が高くてかなわん」

 

「あんたもか。ようけ薬飲んどるなあ」

 

と、高血圧は健康談義の中でも人気トピックスといえるでしょう。

 

それほど高血圧患者は多く、日本には現在4300万人もの患者がいると推定されています。

 

高血圧患者のうち治療を受けている人は60歳代で50%以上、70歳代で60%以上です。

 

いかに高血圧がメジャーな疾患かがわかります。

 

しかし、話が深刻になることは少なく、みなさん「話のネタ」程度しか考えていません。

 

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なぜ高血圧は危険なのか? サイレントキラーと呼ばれる理由

 

高血圧の話が深刻にならないのは、やはり「痛みがないから」です。

 

腰痛、頭痛、癌の疼痛など激しい痛みを伴う疾患は、みなさん深刻な表情で辛さを訴えます。

 

しかし、高血圧はよほど悪化しないかぎり、頭痛、肩こりなどの身体的な苦痛はありません。 

 

実感がないので、健康診断でかなり高い高血圧が発見されても、「そうなのか」と思う程度です。

 

そして通院しながら薬物療法が始まるわけですが、血圧が下がってくるときちんと服薬しなくなります。痛みがないので、服薬の必要性が実感できないのです。

 

診察時に、医師は予想よりも降圧効果が得られてないことを疑問に思いますが、目の前の患者は「ちゃんと飲んでいます」と言います。 それで別の薬理作用の薬が追加されるのですが、やはり患者は「飲んだり飲まなかったり」と自己調節してしまい、十分な降圧効果が得られません。血圧は高値を維持したままです……。

 

しかし、治療が十分でない高血圧患者の身体は、確実に蝕まれています。

 

血液は、ホースのような血管の中を流れています。血圧が高いということは、血液が血管の内壁を押す力が強いということなので、常に血管壁にダメージが与えられているということになります。

 

長年ダメージを受け続けた血管壁は、ある日ついに破綻します。

 

それが、脳出血、心筋梗塞、腎不全、心不全など重大な合併症です。

 

特に脳出血、心筋梗塞は除々に悪くなるというよりも、突然発症して命に関わる疾患なので、非常に危険なのです。

 

高血圧に痛みが伴えば、「薬を飲まなければいけない」というモチベーションを維持しやすいでしょう。

 

しかし痛みがないだけに病気の深刻さが理解できず、服薬が適当になってしまう。その結果、突然重大な合併症を発症し、半身麻痺などの症状が残ったり、最悪死亡してしまう……

 

これが、高血圧がサイレントキラー(静かなる暗殺者)と言われる由縁です。

 

高血圧の原因はほとんどわかっていない

 

なぜ高血圧のなるのか。

 

その原因のほとんどは、実はわかっていません。

 

高血圧の約90%は、とくに原因といえる病気が断定できないものです。

 

このような高血圧を「本態性高血圧症」といいます。

 

残りの10%は、高血圧の原因がはっきりわかっているものです。

 

このような高血圧を「二次性高血圧症」といいます。

 

本態性高血圧症

 

本態性高血圧症は、はっきりと原因がわかりません。

 

遺伝要因、環境要因といった様々な因子が関係しており、遺伝要因が60%、環境要因が40%といわれています。

 

遺伝要因は、親や祖父母など肉親が高血圧だと、子どもも高血圧になりやすい、ということです。

 

その遺伝子は単一遺伝子ではなく、遺伝要因として10前後の候補遺伝子があると推測されています(2015年現在)。

 

環境要因としては、肥満と食塩の過剰摂取が大きな要因とされています。

 

二次性高血圧症

 

二次性高血圧症は、高血圧患者の約10%にみられます。

 

高血圧の原因がはっきりわかっているため、それに応じた治療となります。

 

たとえば、腎血管性高血圧、原発性アルドステロン症のような内分泌性高血圧は治療可能な高血圧です。

 

血圧を決めるもの

 

血圧は以下のような式で決まります。

 

血圧= 末梢血管抵抗 × 心拍出量

 

 

つまり、末梢血管抵抗、心拍出量のいづれか、または両方が増大することで、血圧は上がります。

 

末梢血管抵抗の増大は、レニン・アンジオテンシン(RA)系活性や交感神経活性の増大が原因とされています。

 

また、心拍出量の増大は、腎臓のNa代謝異常による体液量増加が原因とされています。

 

 

高血圧の診断と降圧目標

 

高血圧の診断

 

成人における血圧値の分類は以下のようになります。

 

成人における血圧値の分類(mmHg)
至適血圧 <120 (収縮期血圧) かつ <80 (拡張期血圧)
正常血圧 120〜129 または 80〜84
正常高値血圧

 

130〜139 または 85〜89

T度高血圧

 

140〜159 または 90〜99

U度高血圧

 

160〜179 または 100〜109

V度高血圧

 

180以上 または 110以上

(孤立性)収縮期高血圧

 

140以上 または <90

日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2014より一部改変

 

 

基本的には、T度高血圧といわれる「高血圧のはじまり」になると高血圧と診断され、治療が始まるわけですが、高血圧の診断基準は、血圧の測定場所によってかわります。

 

病院で若干緊張しながら看護師さんに血圧を計ってもらう場合、自宅でリラックスして測定するより血圧が高くなることが多いです。

 

看護師さんが綺麗だった場合、自宅での測定より10mmHgくらい増えるかもしれません。

 

そのため、医療機関で測定する場合、少なくとも2回以上の異なる受診時に、安静に座った状態で測定した血圧値が収縮期血圧で140mmHg以上、拡張期血圧で90mmHg以上の場合、高血圧と診断されます。

 

また、自宅で測定した場合は、135/85mmHg以上が診断基準とされています。

 

最近、血圧測定は毎日同じ時間の値を測定するよりも、24時間の血圧値の動きを診るほうが重要であるといわれています。

 

なぜなら、早朝に血圧が高くなるモーニングサージは、脳血管障害などの発生率が高くなるとされ、診察時以外で高血圧となる「仮面高血圧」といわれる状態は予後が悪いからです。

 

そのため、

 

  • 24時間血圧の平均では130/80mmHg以上
  • 日中血圧の平均では135/85mmHg以上
  • 夜間血圧の平均では125/75mmHg以上

 

が診断基準とされています。

 

 

降圧目標

 

降圧目標は、患者の年齢、合併症などの状態でかわってきます。

 

通常、若年者から前期高齢者は

 

  • 診察時で140/90mmHg未満
  • 家庭血圧で135/85mmHg未満

 

を目標とします。

 

一方で、後期高齢者患者は、若干高めとなっています。

 

また、糖尿病患者、慢性腎疾患(CKD)患者はリスクが高いため、通常より降圧目標が低く設定されています。

 

降圧目標
  診察室血圧 家庭血圧
若年、中年、前期高齢者患者 140 / 90 mmHg 未満 135 / 85 mmHg 未満
後期高齢者患者

150 / 90 mmHg 未満 

 

(忍容性があれば140 / 90 mmHg 未満)

145 / 85 mmHg 未満 (目安) 

 

(忍容性があれば135 / 85 mmHg 未満)

糖尿病患者

130 / 80 mmHg 未満

125 / 75 mmHg 未満
CKD患者(蛋白尿陽性)

130 / 80 mmHg 未満

125 / 75 mmHg 未満 (目安)

脳血管障害患者
冠動脈疾患患者

140 / 90 mmHg 未満

135 / 85 mmHg 未満 (目安)

今日の治療指針 2015年版[ポケット判](私はこう治療している)、医学書院、p365

 

 

高血圧治療治療薬の種類

 

高血圧治療薬にはさまざまなものがありますが、メインとなるのは

 

  • アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
  • アンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)
  • カルシウム拮抗薬(Ca)拮抗薬
  • 利尿薬
  • β遮断薬
  • α1遮断薬

 

です。

 

この中でも、ACE阻害薬、ARB、カルシウム拮抗薬、利尿薬は、高血圧治療薬の第一選択薬として位置づけられています。

 

上記でも説明したように、血圧は

 

血圧= 末梢血管抵抗 × 心拍出量

 

という式で決まります。

 

つまり、

 

  • 末梢血管抵抗(血管壁にかかる圧力)
  • 心拍出量(心臓から送り出される血液量)

 

のどちらか、あるいは両方を減少させることができれば、血圧は下がります。

 

まず、末梢血管抵抗を減らすには血管を広げればよいです。

 

この作用を現す薬が、ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、α1遮断薬です。

 

また、心拍出量を減らすには、心拍数を減らせばよいです。

 

心拍数を減らす薬理作用をもつ薬がβ遮断薬です。

 

さらに、体液量を減らすことでも心拍出量は減少します。

 

体液量を減らす薬理作用をもつ薬が利尿薬です。

 

 

高血圧治療における生活習慣の改善効果

 

高血圧治療において、生活習慣の改善は非常に大切です。

 

血圧が多少高めで、糖尿病、腎障害、心血管病などの危険因子がなければ、通常、3ヶ月間生活習慣を改善することで様子をみます。

 

それでも血圧が140/90mmHg以上であれば、薬物治療を開始するケースが多いようです。

 

生活習慣の改善項目は以下のようなものがあります。

 

  • 減塩:6g/日未満
  • 野菜・果物を積極的に摂る
  • 魚(魚脂)を積極的に摂る
  • コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える
  • 減量:BMI(体重(kg)÷身長(m2))が25未満
  • 運動:有酸素運動を中心に毎日30分以上が理想
  • 節酒:エタノール換算で男性20〜30mL/日以下、女性10〜20mL/日以外
  • 禁煙:受動喫煙も含む

日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会:高血圧治療ガイドライン 2014、https://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014v1_1.pdf、 p40、日本高血圧学会、2014

 

とくに降圧効果が期待できるのは、減量と運動です。

 

これらを総合的に実践することで、薬物治療を回避できたり、休薬できる可能性が高くなります。

 

ただし、狭心症など心血管病をもつ患者は、過度な運動は控えなければなりません。

 

また、重篤な腎障害を伴う患者は高カリウム血症をさけるため、野菜・果物の積極的摂取は控えなければなりません。

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