急性心筋梗塞の治療薬
心筋梗塞といえば、発症直後の危険な状態である急性心筋梗塞(AMI)を指すことが多いです。
急性心筋梗塞は非常に危険な状態です。冠動脈が詰まって心臓が死にかけている状態なので、まず命を取り留めるための処置がなされなければなりません。
発症12時間以内の急性心筋梗塞の場合は、禁忌がないかぎり再灌流療法(ステントを使用した冠動脈インターベンション:PCI )を行うこととされています。
薬物治療は再灌流療法を補助する形で行われます。急性心筋梗塞で運ばれてきた患者さんは、ショック、不整脈、痛みなど様々な症状を起こしているので、素早く適切に薬物選択がなされなければなりません。
また、冠動脈を閉塞させている原因である血栓を溶かすための薬を投与することも重要となります。
カテコールアミン(昇圧剤)の投与
急性心筋梗塞で運ばれてくる患者さんは、ショック状態であることも少なくありません。
医療においてショックとは、「身体の組織循環が細胞の代謝要求を満たさない程度にまで低下すること」を意味します。
つまり、全身に血液が行き届かず、細胞が正常に機能するための酸素や栄養素が不足してしまう状態と言えます。
急性心筋梗塞でショックを起こしている場合は、血圧低下、冷や汗、手足の冷感、意識レベルの低下が見られます。
そのような場合、血圧を確保するためカテコールアミンと呼ばれるノルアドレナリン(ノルアドレナリン)、イノバン(ドパミン塩酸塩)、ドブトレックス(ドブタミン塩酸塩)などを投与します。
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不整脈治療薬
急性心筋梗塞の2大合併症は、致死性不整脈と左心不全です。
心筋梗塞の発症後には主に心室性期外収縮が起こるので、キシロカイン(リドカイン塩酸塩)の静注が行われます。
また、徐脈性不整脈にはアトロピン硫酸塩(アトロピン硫酸塩水和物)が用いられることがあります。アトロピン硫酸塩は抗コリン薬であり、心臓を支配している副交感神経の働きを抑制することで、逆に交感神経の働きを活発にします。
心不全の予防
急性心筋梗塞の急性期におけるもう1つの合併症は、心不全です。
心不全とは病名でなく、心臓の機能が低下して全身に血液を送る役割を担えなくなってしまった状態といえます。
こういった場合、心臓の負担を軽減する必要があるので、ニトログリセリンなどの動脈を拡張する薬や、ラシックス(フロセミド)などのループ系利尿薬が用いられます。
ラシックスは循環血液量を低下させて肺うっ血を除去し、心筋代謝を改善する効果があります。
それでもうっ血が改善されない場合は、Ca拮抗薬やα1遮断薬、β遮断薬(インデラルなど)を用いることもあります。
また、血圧が高すぎると心破裂が起こりやすくなるので、ニトログリセリン舌下錠(ニトログリセリン)、ニトロール(硝酸イソソルビド)の舌下錠を使用することもあります。
鎮痛薬(モルヒネ塩酸塩など)
心筋梗塞は激痛であり、速やかに鎮痛薬の投与が必要となります。
胸痛発作時は狭心症の発作に用いられるニトログリセリン舌下錠が使われることもあります。
しかし、無効なときや明らかに急性心筋梗塞の場合は、麻薬性のモルヒネ塩酸塩(モルヒネ塩酸塩水和物)や、非麻薬性のレペタン(ブプレノルフィン塩酸塩)の静注が行われます。
抗血小板薬
抗血小板薬は、動脈系にできる白色血栓(血小板血栓)を予防する薬です。
ただ、抗血小板薬は血小板の凝集を抑制する作用なので、急性期というより急性期を脱したあとの再発予防に用いられます。
急性期の心筋梗塞では、PCI直前の初期投与として、バファリン配合錠(アスピリン・ダイアルミネート配合剤)やバイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル硫酸塩)を併用することがあります。
血栓溶解薬
心筋梗塞の原因は完全に解明されていませんが、血管内で生じた血栓が血管を詰まらせ、心筋梗塞が発症していることは確かです。
この血栓を溶かすために、血栓溶解薬が投与されます。
血栓溶解療法は、急性心筋梗塞発症12時間以内の症例で、PCIチームがFMCから120分以内に
PCIを施行できない場合に適応があるとされています。
(FMC: first medical contact 救急隊員の現場到着時刻と規定されている)
血栓溶解薬は、従来から使われているヘパリンナトリウム(ヘパリンナトリウム)やウロナーゼ(ウロキナーゼ)といった薬と、より強力な薬であるグルトパ(アルテプラーゼ)、クリアクター(モンテプラーゼ)などのt-PA(組織プラスミノーゲンアクティベータ)に分類されます。
※ヘパリンは厳密には抗凝固薬に分類される
「血栓溶解薬」
従来の薬
- ウロナーゼ(ウロキナーゼ)
- ヘパリンナトリウム(ヘパリンナトリウム)
t-PA
- アクチバシン、グルトパ(アルテプラーゼ)
- クリアクター(モンテプラーゼ)
最近では、血栓への選択性の高さと安全性から、t-PAが血栓溶解薬の主役を担うようになってきました。