降圧剤の効果的な併用方法
日々、高血圧の患者さんの処方せんを調剤していると、ほとんどの医師は降圧薬を組み合わせて治療をしていることがわかります。
では、医師はどのような基準で降圧薬を選択しているのでしょうか。
もちろん医師の「経験」や「こだわり」はあるでしょう。
メーカー(MR)との関係にも影響されるかもしれません。
しかし、やはり初期の高血圧には使われやすい薬があります。
また、併用することでそれぞれのメリットを活かしあったり、逆にデメリットを打ち消す目的で処方されることもあるのです。
高血圧治療は「血圧を下げること」そのものに目的があります。
つまり、降圧薬の種類よりも「いかに降圧作用を発揮する薬(または組み合わせ)を選ぶか」ということが重要です。
高血圧治療薬の種類について⇒高血圧治療薬
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高血圧治療の一般的な順序
高血圧はその数値によって、以下のように3段階に分けられます。
- T度高血圧:140〜159/90〜99mmHg
- U度高血圧:160〜179/100〜109mmHg
- V度高血圧:180mmHg以上/110mmHg以上
T度高血圧のような高血圧の初期で、とくに合併症がない場合、第一選択薬である
- ARB/ACE阻害薬
- カルシウム拮抗薬
- 利尿薬
の中から一つ選んで、低用量の単剤から治療を始めることが一般的です。
β遮断薬は若い患者で狭心症や心不全、頻脈を合併しているケースに用いられることがありますが、第一選択薬とはされていません。
また、α1遮断薬は糖代謝、脂質代謝に影響を与えないことが評価されていますが、こちらも降圧効果の十分なエビデンスが不足している理由から、第一選択薬から外されました。
第一選択薬の単剤を低用量から始めて、生活習慣の改善も行いながら様子を見ます。
副作用が起こった場合は他剤に変更しますが、十分な降圧効果が見られない場合は増量するか、他剤を追加します。
異なる降圧薬を併用したほうが、効果が大きいといわれています。
2剤を併用する場合、
- ARB/ACE阻害薬 + カルシウム拮抗薬
- ARB/ACE阻害薬 + 利尿薬
- カルシウム拮抗薬 + 利尿薬
という組み合わせが推奨されています。
2剤を併用しても十分な降圧効果が見られない場合、
- ARB/ACE阻害薬 + カルシウム拮抗薬 + 利尿薬
の3剤を併用します。
3剤を併用しても目標血圧以下にならない場合を、治療抵抗性高血圧と呼びます。
その原因は
- 服薬がきちんとされていない
- 白衣高血圧
- 肥満など生活習慣の改善不足
- 降圧薬の選択の間違い
など様々な原因が考えられます。
4剤以上を併用する場合は、β遮断薬、α遮断薬、αβ遮断薬、抗アルドステロン薬(セララ)
など別の作用機序の薬を追加します。
最近発売された直接的レニン阻害薬:ラジレス(アリスキレンフマル酸塩)の使用も検討されます。
ラジレスは降圧作用だけでなく、臓器保護作用でも有名な薬です。
しかし、ARB/ACE阻害薬を投与中の糖尿病患者には基本的に併用禁忌とされています。
利尿薬 | β遮断薬 |
Ca拮抗薬 |
Ca拮抗薬
|
ACE‐I、ARB | 血管拡張薬 | |
---|---|---|---|---|---|---|
β遮断薬 | ◎ | |||||
Ca拮抗薬 |
◯ | ◎ | ||||
Ca拮抗薬 |
◯ | × | × | |||
ACE‐I、ARB,DRI | ◎ | × | ◎ | ◯ |
||
血管拡張薬 | ◎ | ◎ | × | ◯ |
◯ |
|
α1遮断薬 |
◎
|
◎
|
◎
|
◯ |
◯ |
◯ |
※ACE-I :アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
DRI : 直接的レニン阻害薬
中原保裕、処方がわかる医療薬理学 2014‐2015、株式会社学研マーケティング、p29
ARB/ACE阻害薬 + カルシウム拮抗薬
ディオバン(バルサルタン)とノルバスク(アムロジピンベシル酸塩)
ブロプレス(ロサルタンカリウム)とカルブロック(アゼルニジピン)
など、ARB + カルシウム拮抗薬 の組み合わせは、現在、もっともよくみられる処方です。
また、空咳の副作用の問題から、ACE阻害薬よりもARBが主流になっています。
この組み合わせは、糖尿病、心不全、腎不全などを合併しているケースにもメリットがあります。
ARB/ACE阻害薬はインスリン感受性改善作用、心肥大改善作用、腎保護作用を併せ持ち、
カルシウム拮抗薬は糖質、脂質、電解質代謝に悪影響をおよぼさないからです。
ARB/ACE阻害薬 + 利尿薬
互いのデメリットを打ち消し合う
この組み合わせは、互いのデメリットを打ち消し合う効果があります。
通常、利尿薬を長く服用していると、逆に腎臓のレニン-アルドステロン系が刺激されて昇圧傾向になり、降圧作用が弱くなってしまいますが、ARBやACE阻害薬を併用することで利尿薬のデメリットを打ち消すことができます。
また、フルイトラン(トリクロルメチアジド)などのサイアザイド系利尿薬、ラシックス(フロセミド)などのループ利尿薬には低カリウム血症の副作用がありますが、ARB、ACE阻害薬の副作用である高カルシウム血症によって打ち消し合うことができます。
ただし、アルダクトンA(スピロノラクトン)、セララ(エプレレノン)などのカリウム保持性利尿薬との併用は、高カリウム血症が悪化する可能性があるので、注意が必要です。
ARB/ACE阻害薬と利尿薬の併用は、とくに降圧効果が高くなります。
そのため、利尿薬は少量から使用することが推奨されています。
心不全を合併しているケースにもよい
ARBやACE阻害薬との併用には、カルシウム拮抗薬が用いられることが多いです。
それは、降圧効果が確実で、利尿薬との併用より副作用が少ないことが理由かと思います。
しかし、心不全に対しては、カルシウム拮抗薬より利尿薬の併用のほうが効果が高いと言われており、積極的に処方されます。
また、日本人は食塩の摂取量が多いことから、重症例ではナトリウムを排泄しながら血圧を下げる作用をもつ利尿薬が昔から使われてきました。
カルシウム拮抗薬 + 利尿薬
軽度の高血圧治療をノルバスク(アムロジピンベシル酸塩)やアダラート(ニフェジピン)でスタートし、目標の血圧まで下がらなければ、フルイトラン(トリクロルメチアジド)、ラシックス(フロセミド)などの利尿薬を追加するケースもよく見られます。
カルシウム拮抗薬は合併症などがあっても使うことができ、糖質、脂質、電解質代謝に悪影響をおよぼさないという利点があります。
そのため、カルシウム拮抗薬 + 利尿薬 は高齢者に処方されやすい組み合わせです。
ただ、利尿薬は長期間服用することで代謝に悪影響をおよぼすので、少量から開始することが望ましいです。
どんどん登場してくる配合剤
高血圧治療は異なる種類の降圧薬を併用することが効果的です。
このことから、2種類の薬を合体させて一つの薬にした「配合剤」が続々と発売されています。
配合剤は
- ARB + 利尿薬
- ARB + カルシウム拮抗薬
の2タイプが有名です。
商品名 | 配合成分1 | 配合成分2 |
---|---|---|
プレミネント配合錠LD | ロサルタンカリウム 50mg | ヒドロクロロチアジド 12.5mg |
プレミネント配合錠HD | ロサルタンカリウム 100mg | ヒドロクロロチアジド 12.5mg |
コディオ配合錠MD | バルサルタン 80mg | ヒドロクロロチアジド 6.25mg |
コディオ配合錠EX | バルサルタン 80mg | ヒドロクロロチアジド 12.5mg |
エカード配合錠LD | カンデサルタンシレキセチル 4mg | ヒドロクロロチアジド 6.25mg |
エカード配合錠HD | カンデサルタンシレキセチル 8mg | ヒドロクロロチアジド 6.25mg |
ミコンビ配合錠AP | テルミサルタン 40mg | ヒドロクロロチアジド 12.5mg |
ミコンビ配合錠BP | テルミサルタン 80mg | ヒドロクロロチアジド 12.5mg |
イルトラ配合錠LD | イルベサルタン 100mg | トリクロルメチアジド 1mg |
イルトラ配合錠HD | イルベサルタン 200mg | トリクロルメチアジド 1mg |
商品名 | 成分1 | 成分2 |
---|---|---|
エックスフォージ配合錠 | バルサルタン 80mg | アムロジピン 5mg |
レザルタス配合錠LD | オルメサルタンメドキソミル 10mg | アゼルニジピン 8mg |
レザルタス配合錠HD | オルメサルタンメドキソミル 20mg | アゼルニジピン 16mg |
ユニシア配合錠LD | カンデサルタンシレキセチル 8mg | アムロジピン 2.5mg |
ユニシア配合錠HD | カンデサルタンシレキセチル 8mg | アムロジピン 5mg |
ミカムロ配合錠AP | テルミサルタン 40mg | アムロジピン 5mg |
ミカムロ配合錠BP | テルミサルタン 80mg | アムロジピン 5mg |
アイミクス配合錠LD | イルベサルタン 100mg | アムロジピン 5mg |
アイミクス配合錠HD | イルベサルタン 100mg | アムロジピン 10mg |
アテディオ配合錠 | バルサルタン 80mg | シルニジピン 10mg |
ザクラス配合錠LD | アジルサルタン 20mg | アムロジピン 2.5mg |
ザクラス配合錠HD | アジルサルタン 20mg | アムロジピン 5mg |
その配合比率には様々なものがありますが、
- 降圧効果を強めたいなら、利尿薬やカルシウム拮抗薬の高用量
- 臓器保護を強化するならARBの高用量
といった基準で選ぶのが一般的です。
高血圧の患者さんは一度に3〜4種類の降圧薬を服用していることも多く、その煩雑さから「飲み忘れ」「飲み間違い」などのノンコンプライアンスになることも少なくありません。
このことから、2種類の薬を一つにした配合剤はコンプライアンスを高めるという意味で評価されています。
また、先発メーカーはジェネリック医薬品に対向するために、次々と配合剤を発売しているという事情もあります。
しかし、配合剤には問題もあります。
副作やアレルギーが起こった場合、どちらの成分が原因か分からないのです。 どちらかを中止して単剤に戻す、ということもできません。
そのような理由で、配合剤を使いたがらない医師もいます。