消化性潰瘍の原因と治療法
消化性潰瘍とは、簡単に言えば胃の粘膜に穴が開いてしまう疾患です。
胃の粘膜筋板を越えて組織が深くえぐりとられた状態といえます。
消化性潰瘍には胃潰瘍、十二指腸潰瘍があります。
スポンサーリンク
消化性潰瘍の症状
消化性潰瘍の原因や胃のダメージの受け方は様々なので、症状も個人差があります。
最も多い自覚症状は腹痛で、上腹部に出やすいと言われます。
胃潰瘍は食後に、十二指腸潰瘍は空腹時に痛みが出やすい傾向があります。
痛みがなくても吐血、下血で消化性潰瘍が発見されることもあります。
特にNSAIDs潰瘍では無症状のことも多く注意が必要です。
消化性潰瘍の原因
健康な人は、食事をして胃液が多量に分泌されても、胃の粘膜が傷つくことなく食物を消化できます。
つまり、胃の粘膜に穴が開いてしまうということは、胃液と胃の粘膜のバランスが崩れているわけです。
消化性潰瘍の原因は、大きく2つに分類できます
- 胃液の分泌が増加しすぎて、胃の粘膜を溶かしていまう
- 胃の粘膜が弱くなり、胃液からダメージを受けてしまう
実際は上記2つが組み合わされ、徐々に粘膜が侵されていくパターンも多いです。
胃液の分泌過多の原因
胃酸分泌過多になる原因は様々ですが、主にストレスと食生活と言われています。
ストレスがかかると一時的に交感神経が優位になります。
しかし、それを調整するために副交感神経も活発になり、胃酸が多量に分泌されると考えられています。
食事に関わる原因としては、コーヒー、アルコールなどの嗜好品があります。
コーヒーは興奮作用があり交感神経を優位にさせるので、その後副交感神経も過敏になり胃酸過多になります。
食前酒は胃酸の分泌を促し消化を助ける目的があります。大量に飲めば、胃液と胃粘膜のバランスが崩れやすくなります。
また、肉料理、から揚げなど消化に負担がかかるものをたくさん食べると、ガストリンというホルモンが多量に分泌されます。
ガストリンは胃酸やペプシノーゲン(※タンパク質分解酵素:ペプシンの前駆物質)の分泌を促すホルモンであるため、胃酸が過剰に分泌されます。
胃の粘膜が弱くなる原因
胃の粘膜が弱くなる原因で重要なものは、解熱鎮痛薬とピロリ菌です。
解熱鎮痛剤による胃潰瘍はNSAIDs潰瘍と呼ばれます。
NSAIDs潰瘍
NSAIDsは風邪、頭痛、腰痛、リウマチなど幅広く用いられています。
NSAIDsはアラキドン酸の代謝過程であるCOX(シクロオキシゲナーゼ)を阻害することで、胃粘膜保護作用のあるPG(プロスタグランジン)の産生を抑制してしまうため胃潰瘍が起こるとされています。
NSAIDsは鎮痛薬としてだけでなく、心筋梗塞、脳梗塞の再発予防目的で用いられることもあります(低用量アスピリン)。
そのため、NSAIDsを頻繁に使う高齢者のNSAIDs潰瘍が問題視されています。
ピロリ菌
最近では消化性潰瘍とピロリ菌の関係が話題となっています。
胃潰瘍の60〜80%、十二指腸潰瘍の90〜95%がピロリ菌陽性と言われ、ピロリ菌を除菌することで再発が大幅に減少することから、ピロリ菌感染の有無は非常に重要視されるようになりました。
ピロリ菌は60歳以上の人で50%以上が感染しているといわれています。
ピロリ菌は胃酸という強酸の中で生き延びるため、ウレアーゼという酵素を産生し、胃粘膜中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解します。
このアンモニアの作用によりピロリ菌の周りの胃酸を中和しているのです。
ピロリ菌の産生するアンモニア、毒素、活性酸素などが胃粘膜に潰瘍を生じさせていると考えられています。
消化性潰瘍の治療法について
前述したように、消化性潰瘍の原因は
- 胃液の出すぎ
- 胃粘膜が弱くなった
の2つです。
これらを解消する方法として、現在では薬物治療が主流です。
攻撃因子抑制薬
胃液の分泌を抑える薬は「攻撃因子抑制薬」と呼ばれます。
主に
- プロトンポンプ阻害薬(PPI)
- H2受容体拮抗薬
- 選択的ムスカリン受容体拮抗薬
- 抗コリン薬
- 抗ガストリン薬
- 制酸剤
- 抗不安薬
があります。
攻撃因子抑制薬 | 薬剤例 |
---|---|
プロトンポンプ阻害薬(PPI) |
|
H2受容体拮抗薬 |
|
選択的ムスカリン受容体拮抗薬 |
|
抗コリン薬 |
|
抗ガストリン薬 |
プログルミド(商品名:プロミド) |
制酸剤 |
|
抗不安薬 |
|
昔は抗コリン薬が消化性潰瘍治療薬として用いられていましたが、あまり効果的ではありませんでした。
しかし、H2受容体拮抗薬の登場は消化性潰瘍の治療を劇的に変えました。
「消化器系の外科医が失業する」と言われたくらい効果があったからです。
現在では、もっとも効果の高いプロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2受容体拮抗薬が消化性潰瘍治療薬の主役となっています。
また、胃酸を中和する薬として制酸薬(酸化マグネシウム、アルミニウム製剤)があります。
これも昔ながらの薬であり、OTC医薬品にも広く用いられています。
ストレスを緩和する薬として抗不安薬(デパス、セルシンなど)が用いられることもあります。
防御因子増強薬
弱った胃粘膜を強化・保護する薬は防御因子増強薬と呼ばれます。
粘膜を守る薬には以下の5つの特徴があります
効果 | 薬剤例 |
---|---|
病巣部位保護作用 |
|
肉芽形成促進作用 |
|
粘液分泌促進作用 |
|
粘膜微小循環改善作用 |
|
細胞保護作用(プロスタグランジン作用) |
|
NSAIDs潰瘍
NSAIDs潰瘍が起こってしまった場合は、原因のNSAIDsを止めるのが第一です。
しかし、リウマチや抗血小板薬として用いている場合、辞められないこともあります。
そうゆう場合はPPIやPG(プロスタグランジン)製剤を用いて治療します。
ピロリ菌の除菌
ピロリ菌は、2種類の抗生剤とPPIの合計3種類を同時服用する方法で除菌できます。
3剤がパックされた「ランサップ」「ラベキュア」があります。