狭心症の薬は3種類をおさえる

狭心症とは、簡単にいえば「心臓の必要とする酸素が足りない」状態といえます。
それは、長年の動脈硬化によって冠動脈が狭くなっているか、冠動脈が痙攣することで血流が減少してしまうことが原因とされています。

 

それならば、心筋が必要とする酸素を冠動脈によって十分供給してあげれば、このような症状はおさまるはずです。

 

狭くなった冠動脈を広げる薬としては、硝酸薬があります。

 

また、冠動脈の痙攣を抑える薬としては、カルシウム(Ca)拮抗薬があります。

 

 

心臓に酸素が足りなくなるのは、心臓が必要以上に働きすぎている場合もあります。

 

階段を登ったりウォーキングなど軽い運動でも発生する狭心症に労作性狭心症があります。これは心臓が働きすぎて酸素が足りなくなっているわけですから、心筋の酸素消費を抑えるため心臓の働きをゆっくりにしてあげればいいです。

 

このような薬効を持つ薬としてβ遮断薬があります。

 

このように狭心症治療薬は、硝酸薬、Ca拮抗薬、β遮断薬がメインとなり、これらを病態によって使い分けていきます。

 

 

狭心症治療薬(硝酸薬、β遮断薬、Ca拮抗薬の薬理作用)

 

狭心症治療薬の薬理作用
※ DHP : ジヒドロピリジン

 

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硝酸薬

 

硝酸薬は、冠動脈を拡張させて心臓への血流を増やすことで狭心症発作を抑えます。

 

さらに硝酸薬は、末梢血管(動脈・静脈)も拡張させることで、心臓の負担を軽減する作用も併せ持っています。

 

全身を巡った血液は静脈から再び心臓へ戻ってきます。この時に心臓にかかる負担を「前負荷」というのですが、硝酸薬は心臓の前にある静脈を広げることで血液をそこにプールさせ、心臓に戻る血液量を減らします。血液量が減れば心臓の仕事量も減るので、心臓の酸素消費を抑えることができます。

 

また、心臓の左心室から血液が押し出される時も心臓に負荷がかかります。これを「後負荷」というのですが、硝酸薬は心臓からでる動脈も拡張させることで心臓の負担を軽減する作用ももちます。

 

このように硝酸薬は

 

  • 冠動脈の拡張
  • 静脈の拡張による前負荷の軽減
  • 動脈の拡張による後負荷の軽減

 

という3つの作用で狭心症発作を抑えていると考えられています。

 

狭心症発作時の特効薬 ニトログリセリン

 

狭心症発作の特効薬として有名なものは、ニトログリセリンの舌下錠(商品名:ニトログリセリン舌下錠、ニトロペン舌下錠)です。

 

発作時に1錠を舌下投与することで速やかな効果を期待できます。舌下には血管が多く分布しているため、速やかに薬が血中に吸収されるからです。

 

ただし、ニトログリセリン舌下錠は開封して放置するとすぐに効果が低下してしまいます。

 

揮発性を抑えたニトロペン舌下錠のほうが安定性が高いといえます。

 

また、ニトログリセリンは経口薬以外にも、スプレー、注射薬、外用薬とラインナップが豊富です。

 

スプレー(商品名:ミオコールスプレー)は浴室で発作が起こった時や、口腔内が乾いている人(高齢者など)の使用に適しています。

 

ニトログリセリンの注射薬は速効性があることと、持続点滴により長時間の効果を期待できるため、不安定狭心症(症状が安定せず、心筋梗塞などに移行しやすいタイプ)の治療に有効です。

 

外用薬は、ニトログリセリンを経皮吸収で除々に血中に送り込むことにより、効果を持続させるために開発されました。
また、経皮吸収は肝臓での初回通過効果を受けないため、安定した血中濃度を期待することができます。

 

ニトログリセリンの外用薬には

 

テープ剤として

  • ミリステープ
  • バソレーターテープ

 

パッチ剤として

  • ニトロダームTTS

 

があります。

 

特にニトロダームTTSの効果持続期間は長く、1日1枚を胸、腰、上腕部のいずれか貼付することで、24〜48時間の効果を期待できます。

 

 

狭心症発作の予防薬 硝酸イソソルビド

 

硝酸イソソルビドはニトログリセリンと比べて効果は低いですが、持続時間が長いことが特徴です。そのため、狭心症の予防薬として使われることが多いです。

 

経口薬としてはニトロール錠があります。通常は1日3〜4回を舌下か内服するのですが、発作時はかみ砕いて舌下投与します。

 

ニトロール錠に持続性も持たせたものとして、ニトロールRカプセルがあります。1日2回内服することで、狭心症の発作を予防します。ただし、発作を抑える目的では用いられません。

 

外用薬としてはフランドルテープがあります。1日1枚を貼付することで、24〜48時間の効果を期待できます。

 

硝酸薬の注意すべき副作用

 

硝酸薬は末梢血管も広げるため、頭痛、めまい、顔面紅潮の副作用が起こりやすくなります。

 

また、血管を広げることで血圧が下がるため、その代償として動悸、頻脈が発生することもあります。

 

そのため、硝酸薬を使用するときは座る、横になる等注意しなければなりません。

 

また、網膜の血管も拡張させるため、未治療の緑内障をもつ患者には禁忌とされています。

 

本来の使い方と違うのですが、ニトロダームTTSを高血圧クリーゼと呼ばれる急激な血圧上昇の治療に用いることがあります。ニトログリセリンの速やかな血圧降下作用を期待してのことです。
貼付するだけなので、口から薬が服用できない高齢者などにも使いやすいです。

 

 

カルシウム(Ca)拮抗薬

 

カルシウム拮抗薬に特徴は、冠動脈の痙攣を抑制する効果があることです。

 

そのため、日本人に多い冠攣縮性狭心症に有効とされています。

 

また、硝酸薬と同じように強い血管拡張作用を持ちます。ただし、左心室からでる動脈の拡張作用による後負荷の軽減がメインで、静脈を拡張する作用は弱いです。

 

まとめると、カルシウム拮抗薬の作用の以下のようになります。

 

  • 冠動脈の拡張
  • 冠動脈の痙攣抑制
  • 動脈の拡張による後負荷の軽減

 

長期のコントロールには、長時間作用型のカルシウム拮抗薬が有効

 

1日3回の服用を必要とするカルシウム拮抗薬は、血中濃度の上昇は早いですが効果が短時間しか続かないことが特徴です。そのため、急激な血圧低下や反射性の交感神経刺激による虚血がリスクとなります。

 

一方で、長時間作用型のカルシウム拮抗薬であるノルバスク(アムロジピンベシル酸塩)、アダラートCR(ニフェジピン徐放剤)では、狭心症発作のコントロールに有効であることが示されています。

 

ベラパミル、ジルチアゼムは心筋収縮抑制作用を併せ持つ

 

カルシウム拮抗薬の中でも非ジヒドロピリジン系と呼ばれるワソラン(ベラパミル塩酸塩)は、血管拡張作用に加えて、心筋収縮抑制作用も持っています。そのため、心臓の仕事量を抑えることで労作性狭心症にも有効とされています。

 

なお、ヘルベッサー(ジルチアゼム塩酸塩)も弱いながら心筋収縮抑制作用を持っています。

 

 

カルシウム拮抗薬の注意すべき副作用

 

カルシウム拮抗薬も末梢血管を広げる作用をもつので、頭痛、めまい、顔面紅潮、頻脈などの副作用が起きやすくなります。

 

また、非ジヒドロピリジン系のベラパミル、ジルチアゼムは心筋収縮を抑制する作用を併せ持つことから、徐脈や不整脈に注意しなければなりません。

 

心機能抑制作用をもつβ遮断薬との併用には注意が必要です。

 

 

β遮断薬

 

β遮断薬は心臓のβ1受容体を主に遮断することで、心筋収縮や心拍数を抑える効果を持ちます。

 

このことから、心臓が働きすぎていることで起こる労作性狭心症に効果的です。β遮断薬は心臓の仕事量を抑えることで心臓の酸素消費量を減少させ、労作性狭心症の発作を予防する効果があります。

 

β遮断薬として有名なものはインデラル(プロプラノロール塩酸塩)やメインテート(ビソプロロールフマル酸塩)があります。

 

選択的β1遮断薬は気管支喘息患者にも使える

 

β遮断薬には以下のように3つに分類できます。

 

非選択的β遮断薬(β1、β2両方を遮断するもの)
  • カルビスケン(ピンドロール)(ISA(+))
  • ブロクリンL(ピンドロール徐放錠)(ISA(+))
  • ナディック(ナドロール)(ISA(-))
  • ミケラン(カルテオロール塩酸塩)(ISA(+))
  • ハイパジール(ニプラジロール)(ISA(-))
  • インデラル(プロプラノロール塩酸塩)(ISA(-))

 

選択的β1遮断薬
  • アセタノール(アセブトロール塩酸塩)(ISA(+))
  • セロケン・ロプレソール(メトプロロール酒石酸塩)(ISA(-))
  • テノーミン(アテノロール)(ISA(-))
  • セレクトール(セリプロロール塩酸塩)(ISA(+))
  • メインテート(ビソプロロールフマル酸塩)(ISA(-))
  • ケルロング(ベタキソロール塩酸塩)(ISA(-))

 

αβ遮断薬
  • ローガン(アモスラロール塩酸塩)
  • トランデート(ラベタロール塩酸塩)(ISA(-))
  • セオノマール(アロチノロール塩酸塩)→狭心症、頻脈性不整脈も適応あり
  • アーチスト(カルベジロール)
  • カルバン(ベバントロール塩酸塩)

 

非選択的β遮断薬はβ1、β2両方を遮断するため、β2遮断作用による副作用(気管支喘息、脂質代謝異常など)に注意しなければなりません。

 

気管支喘息などの副作用を持つ患者には、選択的β1遮断薬を用います。

 

また、β遮断薬のデメリットを解消する特性をもつ薬としてαβ遮断薬があります。

 

ISA(内因性交感神経興奮様作用)も、β遮断薬を選ぶ上で重要な要因となります。ISAをもつものは、心拍数をあまり低下させないという特徴があります。

 

 

その他の薬(シグマート、ACE阻害薬、ARBなど)

 

狭心症は基本的には、硝酸薬、カルシウム拮抗薬、β遮断薬の3つをメインに治療を行います。

 

しかし、それでもコントロールできないときや、心筋梗塞症への移行を防止する目的で他の薬が使われることもあります。

 

シグマート(ニコランジル)

 

冠動脈だけを拡張させる効果を持ち、治療の補助的な役割を担います。

 

難治性の冠攣縮性狭心症の治療に用いられます。

 

ACE阻害薬・ARB

 

ACE阻害薬・ARBで血圧を下げることが、死亡率の低下や心不全の予防効果があることが示されています。

 

抗血小板薬

 

狭心症の治療目的は、命に関わる心筋梗塞の発症への移行を防ぐこともあります。

 

そのため、バイアスピリン(アスピリン)、バファリン配合薬A81(アスピリン・ダイアルミネート配合剤)、パナルジン(チクロピジン塩酸塩)、プラビックス(クロピドグレル硫酸塩)、プレタール(シロスタゾール)などの抗血小板薬が用いられます。

 

 

抗凝固薬

 

急性心筋梗塞症へ移行しやすい急性冠症候群の発症には、血栓が関与しています。

 

そのため、血栓形成予防薬として、ワーファリン(ワルファリンカリウム)などの抗凝固薬が用いられます。

 

ワーファリンは1日1〜5mgで開始して、プロトロンビン時間のINR値(PT-INR)が2.0前後となるよう維持量を決定します。

 

脂質異常症治療薬

 

動脈硬化によって血管が狭窄しているような狭心症には、血中の脂質異常が原因である場合もあります。そのため、コレステロールを低下させることが狭心症の予後を改善することがわかってきました。

 

HMG-CoA還元酵素阻害薬であるスタチン系薬剤の投与は、急性冠症候群の予後を改善する効果があることが示されています。

 

また、中性脂肪を低下させる作用をもつエパデール(イコサペント酸エチル)は、冠動脈疾患の予防効果があることが示されています。

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