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精神科薬剤師に求められる能力とは?
「精神科」と言えば、一般の薬剤師さんには馴染みのない診療科かもしれません。
むしろ、あまり良いイメージを持ってない人も多いのではないでしょうか。
持ちこまれた処方箋が精神科のものだった時、「マニアックな薬ばかりだなー」「どのように服薬指導したらいいんだろう…」と不安になる薬剤師は少なくないでしょう。
しかし、今や日本社会と精神疾患は切ってもきれない関係です。
例えば「うつ病」。国内の患者数は100万人以上。15人に1人は生涯に一度はうつ病になるといわれています。
グローバル化による競争の激化、社会の複雑化が日本人のメンタルヘルスを蝕んでいるのかもしれませんね…
日本で精神疾患は増加傾向にあることは事実。
需要が増えているため、精神科薬剤師に興味を持つ方も増えているようです。
サイト管理人の私が精神科の薬剤師であることもあり、転職についての相談メールをいただくこともあります。
関連記事:「薬剤師の仕事研究室」管理人の転職相談室)。
そのため、今回は「精神科で働く薬剤師の仕事内容」と、さらに深掘りして「精神科薬剤師に必要な3つの能力」について解説します。
また、精神科薬剤師への転職を考えている薬剤師さんへ、「精神科薬剤師の年収」や「求人の探し方」についても紹介しています。
「精神科病院」と聞くと、かなり特殊な環境を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
ただ、薬剤師の仕事の基本は、一般的な病院薬剤師と変わりません。
などです。
医師の処方箋にしたがって薬を調剤します。
ただし、処方箋通りに調剤すればいいわけではなく、処方量、用法用量、多科薬との相互作用をチェックするなどリスクマネジメントが求められます。
特に精神科薬は薬物間相互作用を起こす薬が多く、注意が必要です。
また精神科薬には、ある種の疾患をもつ患者に禁忌とされるものもあります。
薬だけでなく、患者背景も考慮しなければなりません。
精神科の治療は薬物療法が基本です。
そのため、「薬を医師の指示通りきちんと服用すること」は非常に大切です。
精神科の患者さんはやはりその性格上、一般の患者さんよりも精神的に不安定であり、薬に対してあまり良いイメージをもっていません。
患者さんの不安を取り除き、薬の必要性を理解していただき、最終的には患者さん自らが積極的に服薬を守るという状況(アドヒアランス)にもっていければ最高です。
薬剤師は服薬指導で患者さんのアドヒアランスを支援します。
また、精神科の薬は中枢神経系に作用するものが多く、副作用が起こりやすいです。
統合失調症治療薬は、錐体外路障害、尿閉などだけでなく、悪性症候群など時に命に関わる副作用があります。
精神科薬剤師は患者とのコミュニケーションを通じて、副作用をいち早く発見し医師に報告することも求められます。
病院薬剤部には、医師、看護師など様々な部署から薬に関する質問が来ます。
薬剤部は情報を出していく部署であるため、素早く正確なDIを伝える役割があります。
そのため、精神科薬剤師は業界誌、論文を読んだり、インターネットを活用した検索スキルを高めていく必要があります。
精神科薬剤師と言えども、ルーチンワークは普通の薬剤師と変わりません。
しかし、「精神科」という特殊な疾患領域であることから、薬剤師に求められる能力にも特徴があります。
それは
です。
精神科で働く以上、精神科領域の疾患、薬物治療には詳しくなければなりません。
精神科が扱う疾患は
など特殊なものになります。
これらについて専門医レベルは無理にしても、基本的な疾患の知識、薬物治療の組み立て方を知っておく必要があります。
精神科薬剤師には上位資格として「精神科薬物療法認定薬剤師」「精神科専門薬剤師」があります。
「精神科で働く場合、専門資格が必要ですか?」と質問されることがありますが、資格は必要ありません。薬剤師免許だけで勤務可能です。
こういった専門資格は、自分の能力を補完する意味で取得するものです。
ただ、精神科のキャリアが長く、地域の薬剤師会や学会で中心的な役割を担っている薬剤師は専門資格保有者である場合が多いです。
資格取得までの過程が、精神科薬物療法を学ぶ上で非常に役に立ちます。精神科病院に勤めるならぜひとも取得したいところです。
精神科薬物療法に関する高度な知識と技術、経験を持つと認められた薬剤師が取得できる資格です。
など、9項目を満たしている必要があります。
精神科を扱う医療機関での実務経験、病院長からの推薦などなかなかハードルは高いです。
やはり資格取得者は精神科専門の病院薬剤師が多いです。
申請するには精神科薬物療法認定薬剤師を取得していることが必須であることから、薬剤師の精神科領域における最高位に位置する資格と言えます。
理念
精神科専門薬剤師は、精神科薬物療法に関する高度な知識と技術により、精神疾患患者の治療と社会復帰に貢献することを理念とし、精神疾患に対する薬物療法を安全且つ適切に行うことを目的とする。
参考サイト:精神科専門薬剤師部門 −日本病院薬剤師会ー
主要な精神疾患に関する高度な薬物療法の知識、経験を持ち、最適な薬物療法を医師、患者に提案できる能力が必要とされます。
また
といった申請条件があり、かなりハードルは高いです。
ただ、精神科領域の疾患や薬物治療に関する知識は、チーム医療の中で医師や看護師とコミュニケーションするために必要な知識であって「薬剤師ならでは」のものではありません。
精神科医は当然専門領域には詳しいので、疾患についての知識など薬剤師には求めていません。
それでは、「薬剤師ならでは」の知識とは何でしょうか?
それは、製剤の知識や薬物動態、薬物間相互作用に関するものです。
精神科医は日々処方せんを書いていますが、実際に製剤そのものを見ることを意外なことに少ないです。
つまり、処方している薬の形、色、味などを案外知りません。
そのため、薬剤師は患者の状態に応じて剤型変更を提案したり、服薬指導で実際に患者さんに薬を見せながら説明するなど、薬物治療を患者さんごとに最適化します。
また、剤型を変更すると服薬に注意が必要なものもあります。
例えば、統合失調症治療薬であるリスパダール内用液は、液剤であるため即効性があるというメリットがあります。
しかし、お茶(紅茶、ウーロン茶、日本茶など)やコーラに混ぜて飲むと配合変化を起こし、効果が落ちてしまいます。
他にも食事の影響を受ける薬もあり、しっかりとした服薬指導が必要です。
薬物動態の知識も薬剤師の強い武器です。
統合失調症やてんかんの治療では、有効血中濃度が非常に重要になります。
再発を予防するには、常に一定量の薬が体内にあることが必要であるため、「正しい量」を「正しい間隔」で服用し続けることが求められます。
「どれくらいで薬が効いてくるのか」「突然服薬をやめたらどうなるか」こういったことを薬物動態を元に説明すると、説得力が違ってきます。
精神科の患者さんは、精神科の薬だけを服薬しているわけではありません。
むしろ、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病を併発していることが一般的です。
精神が乱れれば生活習慣も乱れることは想像がつきますし、高齢になれば複数の疾患を患う人も増えます。
精神科の薬は、他剤と相互作用を起こすものが多く、注意が必要です。
精神科領域の治療薬 | 併用禁忌薬 |
---|---|
スボレキサント(商品名:ベルソムラ) | イトラコナゾール、クラリスロマイシン、との併用でスボレキサントの作用が増強される |
ピモジド(商品名:オーラップ) | HIVプロテアーゼ阻害剤、アゾール系抗真菌剤、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、などとの併用で、QT延長、心室性不整脈などのリスクが上がる |
フルボキサミンマレイン酸塩(商品名:ルボックス) | ピモジド、チザニジン塩酸塩(商品名:テルネリン)、ラメルテオン(商品名:ロゼレム) |
精神科の薬剤師は、患者の処方情報をチェックしてリスクを拾い上げたり、薬物間相互作用のリスクが少ない薬を医師に提案するといった能力が求められます。
ここまで説明すると、「精神科の薬剤師は精神科の薬だけを扱うわけではない」ということがお分かりになるかと思います。
むしろ、内科領域全般の薬の知識がないと、とても務まりません。
意外に思われるかもしれませんが、精神科医は内科領域の疾患についてそれほど詳しいわけではありません(もちろん詳しい先生もいますが…)。
精神科単科の病院の場合、内科の専門医はいません。
そうなると、薬物療法について薬剤師にアレコレ質問してくる医師もいます。
そのため、精神科の薬剤師といえども、各疾患のガイドラインについて一通り知っておく必要があるのです。
精神科に関わりの深い内科領域は、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症、前立腺肥大症、狭心症など幅広いです。
また、抗菌薬の使い方は病院勤務なら必須となります。
これら疾患についての薬物治療の組み立て方について知っていると、医師の信頼が違ってきます。
3つ目の能力として「語感」が挙げられます。
言葉の選び方、使い方は、精神疾患の患者と向き合うにおいて非常に大切です。
精神科薬剤師の服薬指導に求められることは、端的に言えば「医師の指示通り正しく飲むよう指導すること」です。
統合失調症の再発原因はほぼノンコンプライアンスと言われています。
症状が落ち着いて退院しても、「良くなったからもう飲まなくていいや」「めんどくさい」と服薬しなくなり再発→入院、というパターンがほとんどなのです。
薬剤師は「薬を辞めてしまうことのリスク」を患者さんに分かってもらいたいわけですが、ここで言葉選びを間違えると大変なことになります。
精神科の患者さんは繊細な人が多く、薬について強い恐怖感、不信感を抱く人も少なくありません。
薬剤師が安易に使った一言が、治療の妨げになる場合もあるのです。
私は患者さんと話す前には必ずカルテをチェックし、その人の感性を知るようにしています。
また、担当医から「病名は言わない」「副作用は伝えない」などの指示がある場合もあるため、臨機応変に対応しています。
精神科の服薬指導は、リスクを伝えればよいというものではありません。
自分の言葉が目の前の患者にどうゆう影響を与えるのかを常に意識し、語感を磨いていく必要があります。
「精神科で働くにはメンタルが強くなければならない!」「ミイラ取りがミイラになってしまう」という意見がありますが、私はそうは思いません。
むしろ、「精神的な弱さ」がメリットになることもあるのです。
精神科の医療従事者に適した性格とは
だと思います。
精神科に来る患者さんは、その性格のため社会生活に馴染めず挫折してしまった人も少なくありません。
そうゆう人に「頑張れ!」「負けるな!」などと言っても伝わるわけがありません。むしろ、心に傷を負った人をさらに追い込むことになります。
精神的に弱さをもっていたり、挫折経験のある薬剤師は、患者さんの苦しみに共感することができます。そして信頼されますよね。
薬剤師に限らず、精神科に勤める医療従事者にもっとも求められるのはコミュニケーション能力です。
ただ、それは「自分の意見を伝える」能力ではなく「相手の気持ちに寄り添う」能力です。
統合失調症などの精神疾患は、症状が落ち着くことを「完治」と言わず「寛解」と言います。再発を繰り返す人が多いからです。
精神疾患は一生付き合っていくものであり、その苦しみは患者さん自身にしか分かりません。
医療従事者はただ話を聞き、寄り添うことしかできないこともあります。しかし、それが最良の治療となることもあります。
結論から言えば、「未経験でも精神科病院への転職は十分可能」です。
というか、精神科病院の薬剤師は不足しています!
「精神科はなんか怖そう…」「精神疾患の薬しか扱えないのでは?」という先入観を持つ薬剤師が多いためか、募集してもなかなか集まりません…。
私は30歳で精神科病院に転職しましたが、ほぼフリーパスでしたw。
これまで解説したように、精神科の薬剤師は幅広い薬物治療の知識が求められる仕事です。
薬剤師以外の特別な資格は必要ありません。
就職後は精神科薬物療法認定薬剤師、精神科専門薬剤師などの上級資格の取得も目指せます。
そんな人には、精神科薬剤師はぜひオススメです。
最後に気になる給与について。
精神科病院の薬剤師の年収はどれくらいだと思いますか?
一般的には500万円前後といわれています。私が30歳で転職したとき転職コンサルタントの方から聞いた情報なので、これくらいのラインと考えていただければいいです。
関連記事:病院薬剤師の年収と労働環境は?将来はどうなる?現役薬剤師が解説
しかし、これはあくまで平均であって、地域や病院の状況によりかなり上下するでしょう。
薬剤師の年収は結局、需要と供給によって決まります。
薬剤師が不足している地方なら高額が期待できますが、充足している都市部なら低くなりがちです。
ただ、やはり病院薬剤師の年収は調剤・ドラッグチェーンと比べるとかなり見劣りしてしまいます。
条件が悪いと年収300万円代もザラです。家庭をもつ人だとちょっと現実的ではないですよね。
病院薬剤師でネックになってくるのはやはり年収です。
病院は医師・看護師を優先するため、どうしても薬剤師の年収を下げざる負えないのです。
そのため、精神科病院に転職したいなら最初の年収交渉が非常に大切です。
もともと昇給が少ないので、最初でなるべく高い金額を引き出しておく必要があるのです。
年収交渉はプロに任せてください。
薬剤師専門の転職サイトに登録すると、転職コンサルタントが全面的に転職活動を助けてくれます。
特に年収交渉は強い味方になるので、利用しない手はないです。
私は転職コンサルタントのおかげで、大手ドラッグストア並みの年収を引き出すことに成功しました。これで家族を養えますよ。ありがたやありがたや。。
当サイトでは信頼できる転職サイトをいくつか紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
精神科病院はある意味閉鎖された空間ですが、薬剤師が専門性を磨くには最適な環境です。
精神科薬物療法認定薬剤師、精神科専門薬剤師を取得すれば、「精神科領域のプロフェッショナル」として一目置かれます。
その後は医療機関、大学など多彩なキャリア形成が可能です。
目指す価値はあると思います。
求人をしっかり調べて、納得できる職場を見つけてください。
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