偶然に頼らない新しい医薬品開発

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偶然に頼らない新しい医薬品開発

研究開発

 

従来、医薬品としての新規物質の発見は、偶然からもたらされることが多かったです。

 

例えば、有機化合物の合成、天然物からの抽出、ランダムスクリーニングによるセレンディピティ(偶然発生した現象から、目的とは別の価値を見出す能力のこと)によるものですが、多くの低分子化合物から医薬品候補物質を発見する確率は0.1%以下といわれ、膨大な費用と時間と労力を費やしてやっと一つの医薬品としての新規物質を見つけ出していたわけです。

 

偶然の発見で有名なのが、メバロチンです。メバロチンはHMG-CoA還元酵素阻害剤の一つで、血中のコレステロールを強力に低下させる効果を持ちます。

 

ピーク時の2004年3月期には年間売上高が2000億円を超え、当時の日本の製薬会社にとっては珍しいピカ新(従来の治療体系を大幅に変えるような独創的医薬品)と言われました。

 

メバロチンの薬効成分はコメ粒に生えた青カビの一種から発見され、開発が進められました。最初、マウスやラットでの非臨床試験ではうまくいきませんでしたが、偶然的に実験動物を変えたところ成功したといわれています。

 

しかし、現在主流になりつつあるのが、疾患の発症に関与するタンパク質の立体構造を解析し、その活性部位に特異的に働く作用を持つ化合物をドラッグデザインして創り出す手法です。

 

ヒトゲノムの解明や体内の分子レベル研究の進歩により、ターゲット分子を明確にした偶然に頼らない創薬が主流となりつつあるのです。

 

例えば、がん細胞の増殖や炎症にかかわる遺伝子やタンパク分子を特異的に攻撃して疾患を治療する「分子標的薬」と呼ばる医薬品があります。

 

これらの医薬品は、免疫の抗体や細胞の核酸を利用するタンパク質を主成分としているため、高分子量(分子量数千〜数十万)であり、「抗体医薬」や「核酸医薬」と呼ばれ、今後期待されている領域といえます。

 

ゲノム創薬

ゲノム創薬

 

遺伝子のDNA塩基配列が解読されたことにより、病気の発症に関わる遺伝子や、それから作られるタンパク質の構造が解明されはじめました。それらのデータを元に新たな医薬品を創り出す技術を、ゲノム創薬といいます。

 

DNAの二重螺旋構造には、人間の構造や機能などを決定する遺伝情報が保存されています。その遺伝情報を元に様々な機能を持ったタンパク質が生成され、人間の生命活動に欠かせない役割を担っています。

 

また、そのタンパク質から作られる神経伝達物質、ホルモン、免疫物質の放出、抑制も、各特定部位の遺伝子によってコントロールされています。それらのタンパク質のバランスが保たれることにより、人間は健康を維持することができます。

 

しかし、ストレスや偏食、タバコや食品添加物などの化学物質、遺伝的な内的要因によってバランスが崩れると、様々な病気を引き起こすことになるのです。

 

病気の原因が遺伝子レベル、タンパク質レベルで解明できれば、原因となるメカニズムをターゲットにした新薬を開発することができます。

 

また、個人の遺伝子情報を調べることで、病気の早期発見・早期治療も可能になりえます。近年、「オーダーメイド医療」と呼ばれている治療法です。

 

国際化する研究開発

国際化する医薬品開発

 

製薬会社の市場は世界中であり、もともと国際的な仕事です。

 

しかし、近年は開発治験の分野で国際化が進んでいます。

 

開発治験とは主に、医薬品の候補となる新規物質を実際に人間に投与してデータを集める臨床試験のことを言いますが、この医薬品の開発治験を複数の国や地域で同時に実施する臨床試験(国際共同治験)が活発に行われるようになっています。

 

国際共同治験の利点は、国ごとに新薬として発売できる時期のズレ(ドラッグ・ラグ)の解消につながることです。ドラッグ・ラグが解消されれば、少しでも早く新薬を必要としている患者に薬を届けることができます。

 

今までの開発治験は、非臨床試験・臨床試験の実施方法やルール、申請資料の形式、承認審査の基準などが国ごとに異なるために、時間と費用が大幅にかかり非効率でした。

 

そのため、患者に有効な新薬をより早く届けるために、各国の承認審査基準の標準化が必要とされたのです。1990年にICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)が発足し、新薬承認審査の基準が国際的に統一されるようになり、国際共同治験が可能となった背景もあります。

 

また、国際共同治験はドラッグ・ラグを解消するだけでなく、医薬品の安全性や有効性の民族・人種による差を把握でき、より治験コストの安い地域を選びデータを集めることで開発費を抑えることもできます。

 

最近では、日本より治験コストの安い中国や東南アジアに、研究開発の拠点を置く企業も増えています。


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