抗血小板薬の種類と特徴

抗血小板薬は、動脈系にできる血小板血栓の形成を抑制する作用を持つ薬です。

 

動脈硬化などにより血管が狭くなり、ついにプラーク(隆起)が破綻し始めると、血小板は血管内皮下組織と粘着します。

 

一方、活性化された血小板は、粘着した血小板を足場にしてさらに血小板同士を結合させます。

 

互いに粘着し活性化された血小板は、トロンボキサンA2などの血小板凝集物質を放出するので、さらに周囲の血小板が活性化されて凝集が拡大していきます。

 

このように血小板凝集が血小板血栓の形成を促進していることから、抗血小板薬は血小板の凝集を抑制する目的で用いられます。

 

抗血小板薬

  • バファリン配合錠A81(アスピリン・ダイアルミネート配合剤)
  • バイアスピリン(アスピリン)
  • パナルジン(チクロピジン)
  • プラビックス(クロピドグレル)
  • プレタール(シロスタゾール)
  • エパデール(イコサペント酸エチル)
  • ペルサンチン(ジピリダモール)
  • プロサイリン、ドルナー(ベラプロスト)
  • アンプラーグ(サルポグレラート)
  • オパルモン(リマプロストアルファデクス)
  • コンプラビン(クロピドグレル・アスピリン配合剤)
  • エフィエント(プラスグレル)

 

※バファリン配合錠A330に抗血小板薬としての適応はない

 

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抗血小板の作用機序

 

抗血小板薬
●抗血小板薬の作用機序
黒山 政一 (編集), 大谷 道輝 (編集)、続 違いがわかる!同種・同効薬、南江堂、2013/6、p108 参考

 

 

 

前述の通り、抗血小板薬は血小板血栓の形成の原因である「血小板の凝集」を抑制する作用を持っています。

 

しかし、それぞれメカニズムが違うので確認しておきましょう。

 

複雑な図となっていますが、ポイントは

 

  • cAMPの増加
  • TXA2(トロンボキサンA2)の減少

 

です。

 

cAMPを増加させることで血小板凝集を抑制する薬

 

cAMPは血小板凝集を抑制する作用を持つので、このcAMPを増加させる薬理作用を持つ薬が開発されてきました。

 

パナルジン(チクロピジン塩酸塩)とプラビックス(クロピドグレル硫酸塩)は、アデニル酸シクラーゼを活性化させることで血小板内のcAMPを増加させ、血小板凝集抑制作用をしめします。

 

プロサイリン(ベラプロストナトリウム)、オパルモン(リマプロストアルファデクス)は、血小板膜のプロスタグランジン(PG)受容体を刺激してアデニル酸シクラーゼを活性化することで、血小板内のcAMPを増加させます。

 

また、プレタール(シロスタゾール)とペルサンチン(ジピリダモール)は、cAMPを代謝する酵素であるホスホジエステラーゼを阻害することでcAMPを増加させます。

 

TXA2の合成を阻害することで血小板凝集を抑制する薬

 

アラキドン酸系の産物であるTXA2は、血小板凝集を促進する作用を持ちます。

 

このことから、TXA2の合成を阻害する薬が開発されてきました。

 

アスピリン製剤であるバファリン配合錠A81mg(アスピリン・ダイアルミネート配合剤)、バイアスピリン(アスピリン)は、血小板のシクロオキシゲナーゼを阻害することで、TXA2の合成を阻害し、血小板凝集抑制作用を示す薬です。

 

一方で、エパデール(イコサペント酸エチル)もTXA2の合成を阻害する薬ですが、アスピリンのように酵素を阻害するわけではありません。

 

エパデールは血小板膜リン脂質中のEPA含有量を増加させ、血小板膜からのアラキドン酸代謝を競合的に阻害することによりTXA2合成を抑制します。

 

セロトニン5-HT(2A)受容体の阻害作用を持つ薬

 

セロトニンには、血小板膜上にある5-HT(2A)受容体を刺激して血小板凝集を促進する働きもあります。

 

よって、このセロトニン5-HT(2A)受容体を阻害すれば、血小板凝集を抑制することができます。

 

そのような薬として、アンプラーグ(サルポグレラート塩酸塩)があります。

 

第一選択として採用されやすい抗血小板薬

 

バイアスピリン(アスピリン)、プラビックス(クロピドグレル硫酸塩)は、虚血性心疾患、脳梗塞の予防や閉塞性動脈硬化症の治療に対するエビデンスが多く、第一選択薬として用いられます。

 

 

また、プレタール(シロスタゾール)も脳梗塞や閉塞性動脈硬化症に多く使われます。

 

抗血小板薬の薬物動態と代謝酵素

 

主な抗血小板薬の薬物動態
商品名 Tmax(hr) / t1/2(hr) 主な代謝排泄経路 薬物代謝酵素
バファリンA81mg 0.39 / 0.4 腎排泄 なし
バイアスピリン 4.00 / 0.44 腎排泄 なし
プラビックス 1.9 / 6.9 肝代謝+腎排泄 CYP3A4,1A2,2B6,2C19
パナルジン 2.03 / 1.61 肝代謝+腎排泄 CYP3A4,2C19、2D6
プレタール 3.59 / 9.93  肝代謝+腎排泄 CYP3A4,2C19、2D6

バイアスピリンとバファリン配合錠A81は、ともにアスピリン製剤ですが、薬物動態に違いがあります。
それは、バイアスピリンが腸溶錠だからです。 
そのため、バファリン配合錠A81と比べると吸収が遅くなり、Tmaxが長くなります。

 

バファリン配合錠とバイアスピリンは腎排泄ですが、エパデール、ペルサンチン、プロサイリン、ドルナーは肝代謝です。
ただし、バイアスピリン、バファリン配合錠A81は「重篤な肝障害のある患者」に禁忌とされており、必ずしも代謝経路と一致しないことに注意しなければなりません。

 

 

薬物代謝酵素として重要なCYP3A4,2C19の影響を受けるものは、パナルジン、プラビックス、プレタール、アンプラーグです。

 

CYP3A4阻害薬との併用が注意とされているものは、プレタールです。マクロライド系抗生物質、アゾール系抗真菌剤との併用により、プレタールの作用が増強することがあります。

 

 

CYP2C19阻害薬に併用注意とされているものは、パナルジン、プラビックス、プレタールです。

 

プレタールは、CYP2C19を阻害する薬剤であるオメプラゾール等との併用により、作用が増強することが報告されています。

 

しかし、プラビックスは、CYP2C19を阻害する薬剤との併用により、作用が減弱するとされています。これは、オメプラゾールがCYP2C19を阻害することにより、プラビックスの活性代謝物の血中濃度が低下するからです。

 

プラビックスは肝臓で主に2つの経路により代謝されます。

 

1.エステラーゼにより非活性代謝物であるSR26334(主代謝物)を生成する経路
2.チトクロームP450(おもにCYP2C9)による活性代謝物H4を生成する経路

 

プラビックスの薬理作用を示すのは、2番目の経路で生成される活性代謝物であることから、CYP2C19阻害薬により活性代謝物の生成が減少してしまうのです。

 

プラビックスとCYP2C19遺伝子多型

 

遺伝子多型とは、ある特定の代謝酵素が欠損あるいは変異を起こして活性が低いことです。

 

この遺伝子多型は人種により大きく異なる場合がありますが、個人差もよくみられます。

 

遺伝子多型により、薬物の代謝能が高い群をextensive metabolizer(EM)、低い群をpoor metabolizer(PM)と呼びます。

 

とくにPMの患者の場合、薬物治療に注意が必要となります。 一般的に薬物代謝能が低い場合、薬の作用が強く発現されて副作用が起こりやすくなるからです。
CYP2C19を遺伝子的に欠損している日本人の割合は約20%になるとされています。

 

プラビックスにおいては上記の通り、活性代謝物が薬理作用を発揮するため、PMの患者がプラビックスを服用した場合、薬理作用が減弱する可能性があります。

 

プラビックスの添付文書には、CYP2C19のPM群は、活性代謝物のAUCやCmaxがその他の群と比較して低下した、という記載があります。

 

抗血小板薬の副作用

 

共通する副作用は出血

 

抗血小板薬は、血小板の凝集を抑えて血が固まるのを防ぐ薬理作用を持ちます。
つまり、血をサラサラにする作用をもつので、効きすぎれば出血しやすくなります。

 

2剤以上併用する場合は、さらに注意が必要です。消化性潰瘍など出血をしやすい状態にある患者には、投与量などを検討する必要があります。

 

また、手術や歯科治療(抜歯など)といった場合は、休薬期間も考えなければなりません(後述)。

 

アスピリン製剤は消化性潰瘍に注意

 

バイアスピリンとバファリン配合錠A81は、消化性潰瘍などの胃腸障害に注意です。

 

これらの主成分であるアスピリンは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれ、アラキドン酸をプロスタグランジンに変換する酵素COXを阻害します。 
COX-1により産生されるプロスタグランジンは胃の粘膜を防御する作用をもつことから、NSAIDsにより胃の防御機能が弱まり、消化性潰瘍などの胃腸障害が発生しやすくなるのです。

 

パナルジンは重篤な肝障害に注意。〜今後はプラビックスが主流に〜

 

パナルジンは血液障害と肝機能障害の副作用が高いことで有名です。
これらは投与2ヶ月以内に発現する頻度が89.2%と高く、死亡に至る例も報告されていることから、投与開始後2ヶ月間は定期的に血液検査をするなど注意が必要です。

 

プラビックスはパナルジンと比べて代謝酵素が違い、副作用も少ないことから、今後はプラビックスが主流になると考えられます。また、1日2〜3回投与のパナルジンと比べて、プラビックスは1日1回投与でよいことも利点の一つです。

 

プレタールは頭痛、頭重感の頻度が高い

 

重大な副作用ではありませんが、プレタールは頭痛、頭重感の副作用が5%以上と高いです。

 

また、動悸、頻脈も0.1〜5%未満の確率で発生するとされています。

 

手術前の抗血小板薬の中止はどうするか

 

一般的には、抗血小板薬は手術前に休薬を検討することとされています。

 

休薬期間は、薬剤の作用の可逆性や患者の出血の程度により変わります。

 

抗血小板薬の手術前の中止時期の目安
商品名 中止時期の目安 作用の可逆性
バイアスピリン 7〜10日前 不可逆
バファリン配合錠A81mg 7〜10日前 不可逆
プラビックス 14日前 不可逆
パナルジン 10〜14日前 不可逆
プレタール 3日前 可逆
エパデール 7〜10日前 不可逆
ペルサンチン 24時間前 可逆
プロサイリン、ドルナー 24時間前 可逆
アンプラーグ 24時間前 可逆
オパルモン、プロレナール 1日前 可逆

黒山 政一 (編集), 大谷 道輝 (編集)、続 違いがわかる!同種・同効薬、南江堂、2013/6、p114 参考

 

上図は、危険度が高い手術の場合の休薬期間の目安です。

 

歯科治療など危険度が低い手術の場合は、バファリン配合錠A81、バイアスピリンで3〜5日前、パナルジン、プラビックスで5〜7日前、併用している場合は7日間とされています。

 

「参考書籍」
「同効薬の違いにスッキリ答えてくれる参考書」

 

 

違いがわかる!同種・同効薬 改訂第2版

 

 

続 違いがわかる!同種・同効薬

 

 

「プラビックスとパナルジンの違いって何?」

 

「統合失調症の非定型の薬って何が違うの?」

 

同効薬ということは知っていても、具体的な違いを問われると「……」となってしまう薬剤師って結構多いのではないでしょうか。

 

違いがわかる!同種・同効薬 改訂第2版は、そんな疑問にスッキリ答えてくれる、優れた書籍です。

 

姉妹本である続 違いがわかる!同種・同効薬と2冊で、メジャーな疾患は網羅しています。

 

同効薬のわずかな違いがシンプルにまとめられていて分かりやすい。添付文書とかを見比べても分かりにくいですよね。

 

医師や患者さんからの質問に困ったとき、この本を調べて何度も「助かった…」と思いました。

 

「薬剤選択に役立つね」と評価する医師もいるほどです。

 

 

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