急性心不全と慢性心不全

「心不全」は病名ではなく、状態を表す言葉です。
「不全」とは「不完全」という意味であり、「心不全」とは「心臓が完全に働いてない状態」いう意味です。

 

つまり、心臓の血液を送るポンプとしての機能が低下している状態を「心不全」といいます。

 

心不全は大きく、急性心不全と慢性心不全に分けられます。

 

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急性心不全

「定義」

 

心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて急速に心ポンプ機能の代償機転が破綻し,心室拡張末期圧の上昇や主要臓器への灌流不全を来たし,それに基づく症状や徴候が急性に出現あるいは悪化した病態

 

急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)、2013/9/20更新版、p7 、https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_izumi_h.pdf、2016/4/30閲覧

 

急性心不全は、何らかの原因(怪我や病気)で急激に心機能が低下し、全身に血液が送れなくなった状態と言えます。

 

急性心不全は、急性心筋梗塞、急性心筋炎などあらゆる心疾患が原因で発症します。

 

症状は、軽症のものから命に関わるものまで多彩です。
慢性心不全が悪化して急性心不全に至るケースもあります。

 

急性心不全の自覚症状

急性心不全は、心臓のポンプ機能が急激に低下することにより、肺静脈・体静脈のうっ血(静脈血がたまっている状態)が生じます。

 

そのため、初期症状としては、労作時の息切れや動悸、軽い疲労感がみられますが、安静時には無症状です。

 

しかし、重症化すると、安静時でも動悸や息苦しさを覚えるようになります。
夜間に発作的に呼吸困難になることもあり、生活の質(QOL)を著しく低下させます。

 

 

 

慢性心不全

「定義」

 

慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し,末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態であり,肺,体静脈系または両系にうっ血を来たし日常生活に障害を生じた病態

 

慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)、2013/9/13更新版、p3、https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2010_matsuzaki_h.pdf、2016/4/30閲覧

 

慢性心不全は、病名の通り、慢性的に心臓の機能が低下している状態です。
心臓のポンプとしての機能が低下しているので、脳や肝臓、腎臓などの臓器に十分な血液を送り出すことができません。

 

また、血液を送り出す力が弱くなっているため、肺や静脈にうっ血をきたしてしまいます。

 

慢性心不全は、心疾患の最後の状態ということができます。
命に関わる不整脈などが起こりやすく、突然死の確立も高いです。

 

慢性心不全の原因疾患

急性心筋梗塞、高血圧、肺血栓塞栓症など、様々な疾患が心不全を生じさせる原因となります。

 

さらに、近年の病態解析の進歩により、慢性心不全の患者は、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系に代表される神経内分泌因子が亢進することで、その病態を悪化させていることが判明しました。

 

そのため、慢性心不全の治療薬は、RAA系の悪循環を断ち切る作用をもつACE阻害薬、ARBが基本薬として位置づけられるようになっています。

 

●心不全を生じさせる疾患
  • 急性心筋梗塞
  • 急性心筋炎
  • 弁膜症
  • 高血圧性心疾患
  • 肺血栓塞栓症
  • 心タンポナーデ
  • 肺高血圧症

 

中原保裕、処方がわかる医療薬理学2014-2015、株式会社 学研マーケティング、2014/10/15、p16

 

慢性心不全の症状

運動時や夜間の呼吸困難、息切れ、尿量減少または夜間の多尿、手足のむくみ、疲労感、肝腫大などで、生活の質(QOL)が低下し、日常生活にかなりの障害がおこります。

 

●心不全の症状
  • 呼吸困難(運動時、夜間)
  • 動悸
  • 易疲労、労作性疲労
  • 浮腫
  • 乏尿または夜間多尿
  • 食欲不振、悪心
  • 肝腫大

 

中原保裕、処方がわかる医療薬理学2014-2015、株式会社 学研マーケティング、2014/10/15、p16

 

 

心不全の分類:NYHA(New York Heart Association)

 

心不全の程度や重症度を示す分類としては、自覚症状から判断するNYHA(New York Heart Association)心機能分類があります。

 

NYHA(New York Heart Association)心機能分類
T度

心疾患はあるが身体活動に制限はない.
日常的な身体活動では著しい疲労,動悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じない.

U度

軽度の身体活動の制限がある.安静時には無症状.
日常的な身体活動で疲労,動悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じる

V度

高度な身体活動の制限がある.安静時には無症状.
日常的な身体活動以下の労作で疲労,動悸,呼吸困難あるいは狭心痛を生じる

W度

心疾患のためいかなる身体活動も制限される.
心不全症状や狭心痛が安静時にも存在する.わずかな労作でこれらの症状は増悪する.

(付) Us度:身体活動に軽度制限のある場合
  Um度:身体活動に中等度制限のある場合

 

急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版)、2013/9/20更新版、p8 、https://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_izumi_h.pdf、2016/4/30閲覧

 

生活習慣で気をつけること

 

服薬の徹底

 

慢性心不全は、薬物治療が非常に重要です。
逆に言えば、服薬を中断してしまうと、いっきに心不全が悪化してしまいます。

 

薬剤名、投与量、投与回数、副作用を患者にしっかりと指導し、徹底した服薬コンプライアンスのチェックが必要となります。

 

急激な体重増加に注意

 

一日で体重が2kg以上増加した場合、心不全の急激な悪化が疑われます。
そのため、毎日の体重測定(毎朝、排尿後)は重要となります。

 

ナトリウム制限の食事

 

慢性心不全は、心機能低下による浮腫が起こります。

 

そのため、体液増加の原因となるナトリウムの量を制限することが、心不全治療において極めて重要です。

 

食事管理では減塩によるナトリウム制限が必要です。

 

重症心不全では1日の食塩量を3g以下にすることが推奨されています。

 

ただし、軽症心不全ではそれほど厳格なナトリウム制限は不要であり、1日およそ7g以下の減塩食とするとよいとされています。

 

ワクチン接種

すべての心不全患者、とくに重症患者では、インフルエンザ予防のためのワクチンを受けることが推奨されています。

 

インフルエンザワクチン接種は、心不全患者の冬季の死亡率を低下させるとされています。

 

禁煙・アルコール制限

 

喫煙はあらゆる心疾患の危険因子です。
心不全患者では、禁煙により死亡率や再入院率が低下することが分かっています。

 

また、当然のことながら、過度のアルコールも厳禁です。

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