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ポリファーマシーは、日本の医療において社会問題となっているトピックスです。
まだ誰もが知るほど有名ではありません。
しかし、超高齢化が加速する日本において、この問題はさらに大きくなるでしょう。
「ポリファーマシー」とは何でしょうか?
「ポリファーマシー」に薬剤師が貢献できる事とは?
「ポリファーマーシー」には明確な定義があるわけではありません。
一般的には「多剤併用の患者で、薬剤による有害事象※が起こっている状態」を示します。
※「有害事象」
薬物との因果関係がはっきりしないものを含め、薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない、あるいは意図しない微候、症状、または病気。
服用している薬の数が増えれば増えるほど、ポリファーマシーの発生する確率は上がりますが、「多数服用していればポリファーマシー」というわけではありません。
高齢者は10種類以上の薬を服用しているケースもありますが、処方上の問題(類似薬の重複・薬剤性の副作用・薬物間相互作用など)が無ければポリファーマシーではありません。
一方で、たった3種類の薬でも患者に有害事象が発生していれば、それはポリファーマシーと言えます。
まず認識しておきたいのは「ポリファーマシーは起こるべくして起こっている」ということです。
その原因は、医療の高度かつ複雑化にあります。
現代医療の大きなウェートを占める薬物療法。
用いられる薬の種類は、軽く1万を超えます。
薬は化学物質であり、人為的に体内で化学反応を発生させるものです。
その物質を何種類も同時に体に入れれば、多かれ少なかれ有害事象が発生するのは当然と言えます。
多くの薬は肝臓で代謝を受けるか、腎排泄によって体外へ出ていくため、服用する薬が増えれば増えるほど、臓器への負担は大きくなります。
同時に服用した薬が同じ代謝酵素の影響を受けたり、同じ排泄経路を経るならば、単剤服用時とは異なる血中濃度推移や排泄時間の延長を起こします。
医学の進歩によって多くの新薬が開発され、薬物療法の選択肢は増えました。
その恩恵を受ける代償として、ポリファーマシーという新たな問題が発生したと言えるのではないでしょうか。
ポリファーマシーの危険性は、やはり高齢者のほうが高くなります。
高齢者ほど、同時に複数の疾患を治療しており、多剤併用が増えるからです。
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(案) - 日本老年医学会、p11、https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20150401_01_01.pdf、2016/8/3閲覧
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(案) - 日本老年医学会」によると、
「高齢入院患者で服薬している薬剤数が多いほど、薬物による有害事象が発生しやすくなる」という報告があります。6種類以上でリスクが明らかに増加していることが分かります(図1-1)
また「外来患者で薬剤数と転倒の発生を解析した結果、5種類以上で転倒の発生率が高かった」とされています(図1-2)
さらに高齢者の場合、様々な生理機能の低下により、若年者とは違った薬物動態を示すことがあります。
例えば、70歳以上の高齢者は、多かれ少なかれ腎機能の低下がみられます。
そのため、腎排泄型の薬は投与量を考慮しないと、血中濃度が上がりすぎて副作用が発生しやすくなります。
また、高齢になるほど肝血流量、肝細胞機能が低下するため薬物代謝能は低下し、肝代謝型の薬は血中濃度が上昇しやすくなります。
さらに、細胞内水分量の低下により水溶性薬物の血中濃度が上昇しやすくなることが知られていますが、逆に筋肉量は低下(体脂肪率の上昇)するため、脂溶性薬物は脂肪組織に蓄積しやすくなり、半減期が延長すると言われています。
服薬コンプライアンスとは、患者が医師の指示した用法・用量を守ってきちんと薬を服用することです。
これが問題となるのも、やはり高齢者です。
上記のように複数の慢性疾患を持つ高齢者は、多数の薬を服用しなければなりません。
10種類以上の薬を朝、昼、夕、寝る前と飲み分けるのは、私達の想像以上に難しいものです。
認知機能が低下していれば、服薬管理はさらに困難になります。
独居の患者さんの場合、だれもサポートしてくれる人はいません。
病状が悪化して病院に運びこまれ、持参薬を確認してみたら薬の管理がぐちゃぐちゃだった、という状況は珍しくないです。
きちんと服薬できてなければ病状は進行しますし、逆に過剰服用で有害事象が起こる危険性もあります。
多剤併用が原因で服薬コンプライアンスが低下し有害事象が発生しているなら、服薬コンプライアンスの低下も間接的には「ポリファーマシー」と言えるでしょう。
高齢者の服薬管理は「薬の一包化」や「訪問看護」「薬剤師の在宅患者訪問による服薬管理」などで対応できますが、まだまだ十分とは言えない状況です。
関連記事:なぜ在宅医療に薬剤師は必要なのか
「実際は薬の副作用なのに、それが病状の悪化と診断され、さらに治療薬を処方している状態」を「処方カスケード」と言います。
「処方カスケードの例」
医師は「病気(症状)に対して処方する」のが基本なので、新たな症状に対してどんどん薬が「オン」されていきます。
「薬の副作用ではないか」と疑い処方を削る発想は、なかなか出てこないものです。
患者の症状が落ち着いている場合、前回と同じ処方を繰り返すのが一般的です。
これをDO処方といいます。
胃炎、頭痛、便秘など本当は落ち着いているのに、医師に言われるがままに漫然投与されているケースは珍しくありません。
認知症状が進んだ高齢者の場合、自分の状態を説明できない、という原因もあります。
ポリファーマシー対策には、処方薬を適正に見直し、不要な薬は削除すればいいわけです。
しかし、実際はそう簡単なものではありません。
医師にとって処方を削るのは、悩ましいものなのです。
医師は、それぞれ自分の専門分野をもっています。
循環器専門医、小児科専門医、精神科専門医等、それぞれ専門分野を持ち、プロフェッショナルとして治療にあたっています。
そのため、専門外の処方について言及するのは、気が引けるものです。
医師は疾患や症状に対して、とりあえず「何か」をしなければなりません。
原因がはっきりしてなくても、「治療をした」という努力の証拠を残さなければならないのです。
そのため「とりあえず処方しておく」ことは多いのですが、逆に「処方を削る」となると躊躇します。
処方を削って病状が悪化したら責任問題になるからです。
入院患者の持参薬で専門外の薬であれば、なおさらでしょう。
本当は必要がないのに、患者自身が処方を希望するケースもあります。
昔から日本人は「薬を処方してくれないと不安になる」人が多いですね。
睡眠薬、抗不安薬、鎮痛薬、下剤などは生活の質に関わるため、減らすことを躊躇する患者は多いです。
超高齢化の日本において、ポリファーマシーは社会問題です。
そして、この対策に期待されているのが薬剤師なのです。
病院や調剤薬局、ドラッグストアで薬剤師が貢献できる「ポリファーマシー対策」には何があるでしょうか。
ポリファーマシー対策のためには、まず「患者の服薬情報を正確に把握する」ことが必要です。
そのためには、患者が複数の薬局を利用せず、自分の薬の調剤・管理をすべて任せることのできる「かかりつけ薬局」を持ったほうが良いです。
薬剤師は「かかりつけ薬剤師」として、担当患者のすべての薬剤情報を管理するのです。
2016年の調剤報酬改定で「かかりつけ薬剤師」制度が新設され、患者に選ばれる薬剤師が求められ始めました。
薬剤師は患者に「かかりつけ薬局」「かかりつけ薬剤師」の存在意義を積極的にアピールしていく必要があります。
患者に「お薬手帳」の重要性をしっかり説明する必要もあります。
お薬手帳は、患者の薬剤情報を一元管理するのに便利なツールです。
医療者が患者の薬剤情報を素早く正確に把握し、ポリファーマシーを防ぐのに非常に役立ちます。
災害時には、お薬手帳をみせるだけで臨時の処方をしてもらえる場合もあります。
「調剤技術や服薬指導によって服薬コンプライアンスを向上させる」ことは、薬剤師のメインとなる仕事です。
多剤併用の高齢患者のために、服用時点ごとに薬を「一包化」することで、服薬コンプライアンスを大きく向上させることができます。
薬の管理がシンプルで分かりやすくなるので、家族にとっても便利なものです。
「剤型の変更」も、服薬コンプライアンス向上に役立ちます。
など、患者の状態や家族のニーズに応じて、最適な剤型を検討します。
また、服薬指導で患者自身や家族が「薬を服用する意味」を理解することで、アドヒアランスを高めることができます。
薬剤師は、様々なシーンで患者の処方薬をチェックします。
病院薬剤師は、入院時に患者の持参薬を確認し、担当医に「併用禁忌・注意の薬」「同効薬の提案」などを行います。
調剤薬局や調剤併設型のドラッグストアでは、患者のお薬手帳から「既往歴」「アレルギー歴」「現在服用している薬」などの情報を得ることができます。
在宅を行っている薬剤師なら、患者のベッドサイドで薬の管理状況を確認することができます。
日常的に患者の処方を確認できる立場にある薬剤師は、様々な角度からポリファーマシー対策に貢献できます。
多剤併用であるほど、薬物間相互作用に注意が必要です。
シトクロムP450、P糖タンパク等に強く影響する薬の併用禁忌は必ずチェックしなければなりません。
併用注意の薬であっても、患者の状態によっては避けなければなりません。
関連記事:代謝過程での薬物相互作用
複数の医療機関に通っている場合、類似薬(同効薬)が処方されることは少なくありません。
消化性潰瘍治療薬(PPIとH2ブロッカー、胃粘膜保護剤の類似薬)、鎮痛薬(NSAIDs)、抗アレルギー剤、睡眠薬(BZ系)、抗菌薬などは重複しやすい薬の代表です。
患者がお薬手帳などで処方薬を管理できてない場合、医師は知らずに処方してしまいます。
最近は、高血圧、高脂血症の配合剤が多数発売されているため、同成分が重複するケースもあります。
例えば「ARBとCa拮抗薬の配合剤が処方されているのに、さらにCa拮抗薬を処方してしまう」などです。
ARBとCa拮抗薬、ARBと利尿薬の配合剤は、多くの製剤が発売されています。
ARB+Ca拮抗薬 | ARB+利尿薬 |
---|---|
エックスフォージ(バルサルタン+アムロジピン) | エカード(カンデサルタンシレキセチル+ヒドロクロロチアジド) |
ミカムロ(テルミサルタン+アムロジピン) | コディオ(バルサルタン+ヒドロクロロチアジド) |
ユニシア(カンデサルタンシレキセチル+アムロジピン) | プレミネント(ロサルタンカリウム+ヒドロクロロチアジド) |
レザルタス(オルメサルタンメドキソミル+アゼルニジピン) | ミコンビ(テルミサルタン+ヒドロクロロチアジド) |
アイミクス(イルベサルタン+アムロジピン) | イルトラ(イルベサルタン+トリクロルメチアジド) |
アテディオ(バルサルタン+シルニジピン) | |
ザクラス(アジルサルタン+アムロジピン) |
降圧剤の重複は過度に血圧を下げ、ふらつき、めまいなどを引き起こします。
高齢者なら転倒、骨折のリスクを増加させます。
また、Ca拮抗薬とスタチンの配合剤もあります。
Ca拮抗薬+スタチン |
---|
カデュエット(アムロジピン+アトルバスタチン) |
カデュエットは類似薬の重複はもちろんのこと、高脂血症治療薬のフィブラート系薬との併用も注意が必要です。
腎機能低下患者のスタチンとフィブラート系薬の併用は、横紋筋融解症が起こりやすくなります。
薬剤師は、患者から服用薬剤の情報を聞き出して、こういった重複を発見する必要があります。
患者が訴える症状が実は副作用だった、というケースもあります。
そういう場合は、同薬効で副作用の少ない薬を医師に提案する必要があります。
腎機能が低下している患者、70歳以上の高齢者の場合、腎排泄型の薬にも注意が必要です。
通常より血中濃度が上がりやすくなるため、副作用の発生する確率が高まります。
腎排泄型から肝代謝型の薬への変更を提案するなど、より安全に服用できる薬を検討していく必要があります。
患者の年齢、体質が、ある種の薬に強く影響を受けることがあります。
妊婦・授乳婦は服用できる薬を厳密に検討しなければならない患者です。
高齢者の場合、上記のように「腎排泄型」の薬は注意しなければならない代表例です。
さらに、統合失調症治療薬(定型薬)、BZ(ベンゾジアゼピン)系睡眠薬・抗不安薬、三環系抗うつ薬、H1受容体拮抗薬などは、高齢者の認知機能を低下させる可能性があります。
など、医師に処方提案する必要があります。
症状がなければ薬をやめる、のは当たり前のように思えます。
しかし、処方を削ることはリスクや責任が伴うため、躊躇する医師も少なくありません。
薬剤師は患者から情報を引き出して、医師に情報提供していくべきです。
服用している薬剤数を減らすのであれば、配合剤を検討する方法もあります。
高血圧治療薬であるARBと利尿薬の配合剤(エカード、コディオ、プレミネントなど)、ARBとCa拮抗薬の配合剤(エックスフォージ、ミカムロ、ユニシアなど)を使えば、2剤を1剤にできます。
最近は「週1回投与」「月1回投与」といった、服用回数が少なくてOKな製剤が発売され始めました。
骨粗鬆症治療薬のビスホスホネート製剤は、1日1回服用が主流でした。
そこに、週1回服用の製剤が加わり、最近では月1回でOKの製剤も発売されています。
1日1回投与 | 1週1回投与 | 1月1回投与 |
---|---|---|
フォサマック5mg錠 | フォサマック35mg錠 | なし |
ボナロン5mg錠 | ボナロン35mg錠 | なし |
ベネット2.5mg錠 | ベネット17.5mg錠 | ベネット75mg錠 |
アクトネル2.5mg | アクトネル17.5mg錠 | アクトネル75mg錠 |
さらに、糖尿病治療薬であるDPP4阻害薬で、週1回服用の製剤(ザファテック、マリゼブ)が発売され始めました。
薬剤師がポリファーマシーに関わる上で重要なのは、やはり「医師との信頼関係」だと思います。
薬剤師は良かれと思って医師に「処方提案」します。
しかし、多くの医師は「処方提案」や「処方の変更・削除依頼」に慣れていません。
医師同士でも他人の処方に介入するのは気が引けるのに、薬剤師から言われて違和感を覚えるのは当然だと思います。
トラブルを避け、医師に話を聞いてもらうためには、日ごろから「医師との関係づくり」を行っていく必要があります。
病院や在宅の薬剤師、門前薬局の薬剤師は、医師との関わりが頻繁にあるので比較的有利です。
しかし、処方せんを面で受けている薬局やドラッグストアでは「処方医の顔もみたことはない」という状況は珍しくありません。
それぞれ自分の置かれた環境に左右される部分はありますが、医師に分かりやすくスムーズに情報を伝える方法、不快にさせない話し方など、人間関係を円滑にするスキルも求められます。
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