クレーマーと医療崩壊|なぜクレーマーが増えてきたのか

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クレーマーと医療崩壊|なぜクレーマーが増えてきたのか

クレーマー

ここ数年、「クレーマー」と呼ばれる患者が増えています。

 

クレーム「claim]には

 

  • 売買契約で商品の数量・品質・包装などに違約があった場合、売手に損害賠償を請求すること。
  • 異議。苦情。文句。

 

という意味がありますが、医療やサービスに対する苦情を叫んでくる患者が増えているのです。

 

このクレーマーの増加は、医療スタッフのモチベーションを下げ疲弊させるだけでなく、医療崩壊の原因となる非常に大きな問題です。

 

特にクレーマーの影響を受けるのは、現場で働く医師達です。

 

それは、「立ち去り型サボタージュ」という問題に表れています。

 

立ち去り型サボタージュとは、医療事故で医師が刑事告発され、有罪判決を受けるということが続いた結果、裁判のリスクを怖れて、産婦人科や小児科などの訴訟リスクの多い診療科から続々と医師が立ち去っている現状を示す言葉です。

 

医師を確保できない病院はもう医療拠点としての機能を担えません。実際、地方都市には、産科医や小児科医がまったくおらず、数百キロ離れた街まで通院しなければならない地域も増えているのです。

 

医療過誤の責任を怖れる医師たちは、むずかしい患者は専門病院に送り込みます。そうすると結果的に専門病院に患者が集中し、医師も看護師もオーバーワークになり医療ミスなどトラブルが発生し、さらに医師たちが病院を去る……という「負のスパイラル」に入ってしまうのです。

 

結果的にクレーマーの増加が医療を衰退させているわけですが、彼らはそれにまったく気付いていません。自分達の行動が、自らの受ける医療の質を下げる原因となっていることを、まったく想像できないのです。

 

クレーマー患者の言い分

 

クレーマーの言い分には、正当性のあるものから、まったく理不尽なものまで様々です。

 

例えば

 

  • 手術の明らかなミスで患者が死亡した(重度の障害が残った)
  • 投薬する薬を間違えた
  • アレルギーの既往歴に気付かなかった

 

など、医療者側に明らかに落度がある場合はしかたありません。誠意を持って謝罪し、賠償責任などに応じるべきです。

 

しかし、クレーマーの言い分には、まったく理不尽な「とんでもクレーム」があります。
私が経験したクレームには「薬が効かないから代金を返金してほしい」というものがありました。

 

医師は普通、使い慣れた薬を使って治療を始めます。

 

しかし、患者はそれぞれ体質や生活習慣が違うので、期待された効果が出ない場合もあります。
また、副作用で服薬が続けられないケースもあります。その場合、医師は患者の状態を診て、第二、第三の治療法を考えていきます。

 

また、同じ疾患でも、医師によって使う薬が全然違うこともあります。このように、薬物治療は元々曖昧なものなのです。

 

しかし、クレーマーにはこの事が理解できません。
彼らは「金を払っているんだから、それに見合う効果を出せ」と主張します。
薬物治療を、パソコンの不具合を治すようなものと考えているのかもしれません。

 

また、同僚のソーシャルワーカーから聞いたクレームにも、信じられないものがありました。

 

そのソーシャルワーカーは、入院費を払えない患者のため、息子夫婦に連絡をとろうとしました。
しかし、その息子は
「自分達の生活で精一杯。面倒みれない」
「散々迷惑をかけてきて、今更連絡してくるな」
と、取り付く島がありません。

 

それどころか、翌日、病院に怒鳴り込んできたのです。

 

そのクレームの内容は
「夕食時に電話してきて、子供が泣き止まなかった。食事を食べられなかった」
「突然見ず知らずの人間からいろいろ言われて、妻が精神的苦痛を負ってしまった。どうしてくれるのか」
というものでした。

 

そもそも、自分の親の問題ですから、当然その息子夫婦には責任があります。
医療費が払えないならば、生活保護を申請する、社会保障で対応できる方法を探す、などソーシャルワーカーに協力してしかるべきです。
それを棚にあげ、逆にソーシャルワーカーの対応の悪さをなじってくるのです。

 

自分の未成熟さを言い立てて、責任を逃れようとするばかりか、医療スタッフに文句を言う。
子供の言い訳も同然で、呆れて物が言えません。

 

クレーマーの戦略

 

クレーマーを論じる上で、参考になる書籍があります。

街場のメディア論 (光文社新書) (内田樹 著)です。

自分の無知・無能を言い立てて「免責特権」を確保し、その上で、「被害者・弱者」の立場から、都合の良いことを言い立てる――これが最近のクレーマーの構図であると、内田氏は主張しています。

 

この「被害者であることが正義」という考えは、90年代にアメリカから日本に入ってきたと言われています。

 

典型的な例として「街場のメディア論」で紹介されているのが、1994年の「マクドナルドコーヒー訴訟」です。

ニューメキシコ州のある女性が、マクドナルドのドライブスルーでコーヒーを買い、クリームと砂糖を入れるために、コーヒーを股にはさんで、蓋を取ろうとしてひっくり返し、太ももからお尻にかけてやけどを負いました。この事件で、この女性は、マクドナルドは消費者保護義務を怠ったとして、治療費など800万ドルの賠償請求をしました。
裁判の結果、評決は損害賠償20万ドル、プラス「安全性を考慮しないマクドナルド社の不法な行為に対する懲罰的損害賠償として」270万ドル、合計290万ドルの賠償を命じました(その後、和解で60万ドルにまで減額された)。

 

普通の感覚を持った人なら、これが正しい判決であるとは思わないでしょう。
熱いコーヒーを股にはさんで運転すれば、コーヒーがこぼれる可能性のあることは十分予想できます。
しかし、この女性は予想できず、やけどを負ってしまった。当然、自己責任ということで終わるかと思いきや、その女性は「予測できなかった」と主張します。

 

予見できなかったと訴えることにより、加害と被害の関係が発生し、被害者は保障を要求でき、かつ「正義」の立場に立つことができる。
自分の無知・無能、つまり市民的未成熟を言い立てれば、物質的・倫理的優位性を得ることができる――この論理が通用することを、クレーマー達は経験的に知ってしまったのです。

 

この考えは、ありとあらゆる場面で「とりあえずダメモトでも、被害者の立場を先取しようとする人」を組織的に生み出しました。
それが「クレーマー」です。

 

「患者さま」が医療を滅ぼす

 

私が新卒でドラッグストアに入社したとき、調剤室に来る患者さんを「患者さま」と呼ぶことを徹底されました。
しかし、病院で勤務を始めてから、入院患者を「〜さま」と呼んでいると、先輩から「〜さんでいいよ」と言われました。「医療は7割は税金で補っているから、完全なサービス業ではない」と言われて、病院はそうゆうものなのかなと思いました。

 

最初は非常に違和感を感じましたが、続けていると慣れてきました。むしろ、そのほうが患者さんとフランクに話せるようにも感じました。

 

患者さんの名前を「〜さま」と呼ぶことは、サービス向上のために必須なのでしょうか。それが、より良い医療の実現につながるのでしょうか。
このことについても、内田氏は論じています。

 

彼は、『患者さま』と呼ぶことを、医療の根幹部分を損なう措置ではないかと、言及しています。
ある病院では、『患者さま』という呼称を採用するようになってから、病院の中で以下のような変化が起きたそうです。

 

  • 入院患者が院内規則を守らなくなった(飲酒、喫煙、無断外出など)
  • 看護師に暴言を吐くようになった
  • 入院費を払わずに退院する患者が出てきた

 

医療の質が向上するどころか、患者マナーの劣化につながってしまったのです。

 

なぜこのような結果になったのでしょうか。
それは、「患者さま」という呼称は、医療を商取引モデルで考える人間が思いついたものだからです。

 

医療を商取引モデルで考えれば、「患者さま」は「お客さま」です。
病院は医療サービスを売る「お店」です。
そうなると、「患者さま」は消費者的にふるまうことを義務づけられます。
「消費者的なふるまい」とは、「最低の代価で、最高の商品を手に入れること」をめざして行動するということです。

 

例えば、りんごを購入する場面を想像してみます。
お客は八百屋で、目の前にあるりんごを最低の代価で購入しようと試みます。
そのために、まずりんごの批判から入るのです。

 

「一つ200円は高すぎる。駅前のスーパーでは100円で売っていた。」
「ちょっと傷んでるよ。負けてよ。」
このように、欲しい対象の非難から始めて、下げられるギリギリの値段まで交渉するはずです。

 

この行動を医療現場に当てはめると、「患者としての義務を最低限にまで切り下げ、医療サービスを最大限まで要求する」ふるまいというかたちをとります。
上記の病院で起きた状況は、この図式から導かれた結果なのです。

 

医療に市場原理を持ち込んではいけない

 

小泉純一郎内閣のときに導入された「構造改革・規制緩和」政策とは、「市場にゆだねれば、すべてうまくゆく」という考えに基づいたものでした。
「市場原理主義」とも言えるこの信仰は、行政改革にも、医療にも、教育にも、さまざまな分野にゆきわたりました。

 

市場原理主義とは、すべては「買い手」と「売り手」の間の商品の売り買いによって表現される構造です。
消費者も売り手も、自己利益を最大限得るために、互いを牽制しつ振る舞う。その結果、両者が妥協できるところで交渉が成立する。
市場に任せれば「もっとも安価で高品質のものが商品として流通する」理想的な市場になる。
そのモデルを国は、医療にも適用しようとしました。

 

その結果が「できる限り医療行為に協力せず、しかし最高の医療効果を要求する患者」の出現です。
クレーマーの増加や医療崩壊の原因は、医療に市場原理を持ち込んだ結果と言えるのです。

 

医療は、スーパーやデパートのように、純粋に商品と現金の取引で成立しているものではありません。
たしかに病院は「医療サービス」を提供する場所ですが、医師は患者を診察し治療をするとともに、健康や生活習慣についてアドバイスする「指導者」でもあります。それが「先生」と呼ばれる理由です。
またコメディカルに関しても、専門的な能力を提供する教育者的役割があります。

 

昔から病院は「医師=教師」「患者=生徒」というある種の教育現場のような場所であったはずです。
そこで育まれていた信頼関係が、市場原理の導入によって失われようとしているのです。

 

 

 

「参考書籍」

 

 

街場のメディア論 (光文社新書)

 

テレビ視聴率の低下、新聞部数の激減、出版不況などの社会情勢と、メディアの社会的存在意義を論じた本です。

 

特に第三講と第四講は必見です。
現代社会における典型的なクレーマーの構造が、非常に分かりやすく的確に説明されています。

 

私もドラッグストアなどのサービス業に従事して様々なクレーマーに苦しめられてきたので、書かれている内容を読んで膝を打つ思いでした。


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