病院薬剤師の未来 | 薬剤師の仕事研究室

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病院薬剤師の未来

試験管

チーム医療の重要性が叫ばれ始めたのは、もちろん国からの要請もあります。

 

しかし、一番の理由は「医療の高度化・複雑化」です。

 

聴診器1つ、レントゲン1枚で診療のほとんどが済み、わずかな種類の薬剤しかなかった時代には、チーム医療という概念はありませんでした。
医師が診療と治療のすべてを行うことができ、その介助者として看護師がいれば医療行為は完結していたからです。

 

しかし現在は、診療科は専門別、臓器別に細分化され、使われる言葉も薬も異なるようになりました。例えば内科と一口にいっても心療内科、循環器内科、糖代謝内科など専門別に枝分かれしています。小児科と外科ではまったく別の世界らしく、知り合いの医師は「同じ医師でも大工とシェフくらい違う」と言っていました。

 

また、CT、MRI、PETなど画像検査の進歩、血液検査のすばやく正確な測定などにより、医療が高度かつ迅速化しています。

 

さらに、疾病構造の変化により、急性疾患の治療から、生活習慣病など慢性疾患の慢性期治療へ医療の中心は移りつつあり、それにともない「治療から予防へ」というプライマリ・ケアが重要視されています。

 

高齢化社会はもっとも重要な問題です。
2055年には50代以上が人口構成の60%以上を占めると言われており、このままでは医療保険の財源はもちろんのこと、ベット数も足らなくなることが危惧されています。そこで医療機関から在宅・介護施設へというトレンドが生まれつつあり、なるべく病院を使わず、地域で医療を行うことが求められるようになっています。

 

つまり、現代の医療は医師一人では対応できなくなっているのです。

 

患者を診断し「医療を発生させる」のは医師の仕事ですが、そこから「どう治療していくのか」「どうゆう身体的、精神的ケアをするべきか」について、コメディカルと言われる看護師、臨床検査技師、作業療法士、理学療法士、臨床心理士、栄養士、ソーシャルワーカーなどがそれぞれの専門性を活かして対応していきます。

 

もはやチーム医療はスタンダードな形であり、将来、さらにその重要性は高まるでしょう。

 

その中で病院薬剤師の仕事はどうなっていくのでしょうか。

 

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拡大する看護師の業務

 

病院薬剤師の将来を考える前に注目すべきは、「特定看護師」の検討です。

 

特定看護師とは「医師の指導の下、より高度の医療行為に携わることを認定された看護師」のことです。つまり、医師しかできなかった医療行為の一部を、看護師もできるようになるという制度です。

 

例えば、具体的な医療行為には

 

  • 経口・経鼻気管挿管の実施
  • 褥瘡の血流のない壊死組織のシャープデブリードマン
  • 病態に応じたインスリン投与量の調整
  • 脱水の程度の判断と輸液による補正
  • 持続点滴投与中薬剤(降圧剤・K,Cl,Na・カテコラミン)の病態に応じた調整
  • 臨時薬剤(抗けいれん剤・抗精神病薬・抗不安薬など)の投与

 

などがあります。

 

項目は多岐に渡りすべてを紹介できませんが、注目すべきは「薬剤の投与」です。
もし特定看護師が実施されれば、「看護師が処方権をもつ」ということになります。

 

もちろん、「医師の監督下で」とう条件は必ずついてきますし、一部の薬しか処方できませんが、特定看護師が医療に与える影響はとても大きなものになるでしょう。

 

特定看護師は、2010年3月の厚生労働省「チーム医療の推進に関する検討会」で創設が検討され、2014年の現在まで検討が重ねられてきました。しかし、いまだはっきりとした実行には至っていません。

 

その原因はやはり、「医師会からの反対」です。

 

「医学教育を受けてもなく、経験、知識のない看護師が医療行為を行えば、患者に不利益を与える可能性があり、リスクが高い」という意見のため、特定看護師制度はなかなか実施に至っていません。

 

特に「処方権」の問題はかなり反対意見が多く、今後も実施されることは難しいかもしれません。

 

歴史的に見ても、医師会はコメディカルの権利拡大を良くは思わない組織です。

 

それは、院外処方についてかなりの政治的圧力をかけたことからもはっきりとわかります。

 

1974年からようやく院外処方が実質的に行われるようになり、2014年には分業率が70%近くに達しました。しかしそれに至るまでには、1世紀に渡る医師会と薬剤師会の利権争いがありました。

 

医師会は自分達の独占権が少しでも奪われることに、その財力と政治力を持って、猛烈な反発をします。建前は「素人が行えばリスクが高い」ということですが、本音は「食い扶持が奪われる」ということもあるでしょう。

 

ナースプラクティショナーとの違い

 

アメリカ合衆国には、ナースプラクティショナーという制度があります。

 

ナースプラクティショナーは、初期症状の診断、処方、投薬などを行うことができますが、外科手術などは行うことができません。
看護師として一定以上の職務経験を積み、専門大学院で学位を取得することで資格を得ることができます。

 

ナースプラクティショナーは言わば「プチドクター」のようなものですが、その役割は非常に重宝されています。医師のいない地域では頼られますし、アメリカは医療費が高額であるため、医療コストの削減という面でも貢献しています。

 

私の滞在していたカナダでも、街のあちこちナースプラクティショナーの開業したクリニックがあり、地域の人に頼られているようでした。ドラッグストア内に開業することも多く、薬剤師と共同で簡単な薬物治療を行っているところもありました。

 

アメリカは、ナースプラクティショナー制度を1960年代に導入しましたが、その懐の大きさは凄いと思います。

病院薬剤師の未来

 

病院で働いていると、看護師の存在感の大きさを強く感じます。
診察の準備から病床数のチェック、オペ室の管理など、看護師がいなければ病院は経営できないくらいその影響力は大きいです。特定看護師の提案もうなづけます。

 

それに対して、病院薬剤師の業務は今度どうなるのでしょうか。

 

病院薬剤師は昔はあまり存在感がなかったのですが、近年その貢献が認められ始めました。

 

それは

 

  • 「病棟薬剤業務実施加算」100点(入院患者一人につき週1回)
  • 「がん患者指導管理料3」200点(2014年4月から)

 

という診療報酬制度の新設にあらわれています。

 

共同薬物治療管理

 

共同薬物治療管理(CDTM=Collaborative Drug Therapy Managemant)とは、医師と薬剤師が共同で薬物治療を管理していくものです。

 

CDTMは心臓疾患、高血圧、糖尿病、静脈血栓塞栓症、心不全、喘息など慢性疾患に適用されることが多いですが、それは患者の薬物治療が長期化する傾向があり、そこに薬剤師の介入が効果的だからです。

 

医師が薬物治療の方針を決め、処方の開始や修正、中止、検査依頼、薬効評価などは薬剤師に任されます。

 

これは1970年代にアメリカで採用されたモデルであり、今後は日本でも普及していくことが予想されています。

 

「薬剤師が治療法を決めるのか」と批判する人もいるでしょう。
しかし、これは間違った認識です。
薬物治療の方針を決めるのはあくまで医師であり、薬剤師はアドバイザー的な役割を担うのです。

 

なぜ薬剤師のアドバイスが必要かというと、現在の薬物治療は昔より高度・複雑化しているからです。

 

一昔前は薬剤の種類や数は少なく、医師と看護師だけで医療を完結させることができました。
しかし、近年、医学は急速に発展し、ゲノム創薬による新機序の薬剤の開発と、それに伴う薬剤間相互作用・副作用の発生など、もはや医師だけでは薬物治療の質を確保できなくなっているのです。
薬剤師は「薬のスペシャリスト」です。

 

  • 薬の種類や剤形の知識
  • 薬の値段や保険適応の可否
  • 薬物間の相互作用
  • 薬と副作用の関係
  • 薬物動態
  • 薬物治療の基本的なガイドライン

 

などの高度なスキルを持っているので、医師を補助し薬物治療の質を向上させることができるのです。

 

CDTMはまだ日本ではそれほど普及していませんが、一部の病院では薬剤師が積極的に薬物治療に貢献しています。
このモデルがより普及されるには、薬剤師の能力の向上が不可欠といえます。

 

処方提案

 

処方提案とは、医師が薬物治療を決める時に、薬剤師が処方内容を提案するものです。

 

例えば、医師から患者の容態や検査値を聞かされて、「Aという薬を、○gで1日3回で投与したらどうでしょうか」と、かなり具体的に提案することもあります。

 

処方提案は、「医師と薬剤師で協働して薬物治療を行う」という観点で言えば、CDTMの範疇に含まれるでしょう。

 

患者さんは「医師はなんでも知っている」と思っていますが、当然そうではありません。
医師は神様ではないので、すべての疾患と薬物治療を知っているなどありえません。

 

医師は自分の専門で使用する薬に関しては、非常に深い知識を持っています。
しかし、専門外の薬となると、あまり知らないこともあります。しかも、最近はジェネリック医薬品が普及し、「名前は違うけど中身は同じ」という薬が沢山あるため非常に複雑です。

 

だから、薬剤師にアドバイスを求めることが多いのです。

 

処方提案が求められるシーンは、例えば、新規の患者が入院してくる場合があります。

 

特に高齢患者は、糖尿病、高脂血症、痴呆など様々な疾患を持っていることが少なくありません。

 

私が勤める精神科の患者さんは、統合失調症、アルツハイマーなどで入院してくると、まず慢性疾患を持っています。
統合失調症で使われる非定型と呼ばれる薬剤は、「過食」「肥満」の副作用を持つものもあるので、糖尿病などの生活習慣病はまず付いてきます。

 

そうなると、精神科医は専門外の治療もしなければなりません。
他院で服用していた薬をチェックするため、患者のお薬手帳や薬剤情報書を確認するのですが、知らない薬もあるわけです。そこで薬剤師に「当院で代替できる薬はないか」と聞き、薬剤師が処方内容を提案することになります。

 

処方提案を行うには、医師との人間関係がしっかりできていることが前提です。
医師から「この薬剤師は信用できる」と思われると、積極的に聞いてくれるようになります。

 

そのためには、病院薬剤師は各疾患の薬物治療における基本的なガイドラインを把握していなければなりません。

 

将来的に薬剤師が処方に関わる業務が増えれば、求められる知識・経験も高度になることが予想されます。

 

バイタルサインチェック・フィジカルアセスメントが当たり前に

 

上記の共同薬物治療管理のためには、薬物治療の効果や副作用を把握する必要があります。

 

そのためには、バイタルサインチェック・フィジカルアセスメントが必要となります。

 

バイタルサイン……人間の基本的な生命微候である、呼吸、脈拍、血圧、体温
フィジカルアセスメント……心音や呼吸音を聞いたり、視診、触診、打診といった手技により、患者の健康状態を把握すること

 

こういった手法は、今までは医師や看護師だけが行ってきました。

 

「薬剤師は患者に触れてはいけない」といわれたこともありましたが、これは迷信です。
薬剤師が患者に触れることは法律で禁止されていません。

 

医師で薬局経営者であるファルメディコの狭間先生によると、「薬剤師は、効能・効果から入らない唯一の医療職種」であるそうです。

 

医師や看護師は薬を見た時、まず「効能・効果」を思い浮かべます。つまり「この薬はどう効くのか。強いのか弱いのか。」ということです。

 

しかし、薬剤師の思考は効能・効果に「副作用」が必ずついてきます。それは、薬剤師が薬理学や薬物間相互作用といったメカニズムを想像できる、化学者としての能力があるからです。

 

薬を適正に使用し、副作用を未然に防ぐことは、薬剤師に課せられた大きな責務の1つです。その精度を高めるために、バイタルサインチェックやフィジカルアセスメントは必須となってくると思います。

 

一部の処方権

 

これは私の予想ですが、将来的に薬剤師の処方権が一部認められるかもしれません。

 

ドラッグストアでは、「第一類医薬品」「スイッチOTC」と呼ばれる、もとは医療用医薬品であった薬が、薬剤師の管理のもと販売できるようになりました。

 

それならば、病院薬剤師でも、軽度の疾患であれば処方権が認められてもいいと思うのです。

 

例えば、NSAIDsなどの痛み止め、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬、抗不安薬、下剤、PPI、H2ブロッカーなどの胃腸薬ならば、適正に使用すれば副作用の問題はさほどありません。

 

上記で特定看護師に処方権が認められるかもしれない、という議論がありましたが、当然薬剤師のほうが薬物治療や安全な薬の使い方に詳しいです。

 

薬剤師の方がスムーズかつ安全に処方できると思うのですが、どうでしょうか。

 

 

 

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